第23話

家の前で立ち尽くす事、10分。


ようやくチャイムを押す決心をして

指を当てた時、


「響太くん?」


と後ろから声がした。


振り向くと仕事帰りであろう

みちさんが立っていた。


そうだ、仕事の時間だった…

そんな当たり前の事さえ思いつかなかった。

僕はかなり重症な気がした。


「…久しぶり」


「チャイム鳴らそうとしてたでしょ?鍵もってるのに(笑)」


そう言いながら、

みちさんは鍵を開けて僕の背中を押して

家の中へと招き入れた。


確かに鍵をもっていた。

けれど、会わなかったこの1ヶ月で

それを勝手に使っていい期限は過ぎてしまった

、そんな気がしていた。


「ほら、座って!今コーヒーでも入れるから。」


みちさんに言われるがまま

僕はソファーに座った。


そして、久しぶりにみちさんがキッチンに立つ後ろ姿を見ていた。


たった1ヶ月過ごしただけで、

たった1ヶ月会わなかっただけなのに

すごく懐かしい気持ちになっていた。


「今日は泊まっていけるの?」


コーヒーを入れながら、

振り向かずに

みちさんは言った。


「明日戻れば大丈夫だから」


「そっか!じゃあ夕飯も一緒に食べれるね!

何かあったかなぁ〜。買い物してくれば良かった」


やはり僕のことは見ずに話し続ける。


僕はソファーから立ち上がり、

みちさんのすぐ後ろに行った。


「みちさん」


「ん?」


「勝手に出てってごめんね」


「…うん」


マリコさんの顔が一瞬過ぎったけれど、

僕は後ろ姿のみちさんを抱きしめずには

いられなかった。


そして、みちさんの身体をこちらに向かせて

ちゃんと顔を見た。


家に入ってから、やっと目が合った。


でも、みちさんはすぐに目を逸らそうと

顔を背けるので

僕はみちさんの頬に手を当てて

また戻した。


「恥ずかしいから…」


そう言いながら、

みちさんは頬に当てた僕の手に自分の手を

重ねながら俯いた。






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