第22話

「R」は本格的にメジャーデビューに向かって

動き出していた。


契約した事務所での今後についての打ち合わせだとか、レコーディングだとか。


毎日そんな事が行われていた。


僕がみちさんの所を出てから

1ヶ月が経とうとしていた。


家を出てから

僕はみちさんのことばかり考える様になった。


「響太!おい!聞いてんのか?!」


ギターのチューニングの最中にぼんやり

していたものだから、

洸介の声に気付くまで間が空いた。


ハッとして

「え?何?なんか言った?」


洸介がニヤニヤしながら

「明日と明後日、休みだってよ!」


そう言って肩で僕を押してきた。


「そうなんだ…曲作る時間欲しかったから

良かった」


「違うだろ!ナントカちゃんのとこ行ってこいよ。

お前ずーっとその子の事考えてますって顔してる」


「別にそんなことないけど…」


「まぁまぁ、とりあえず宙ぶらりんのままより

行ってこいって。その方がいい曲が出来る!」


「結局、そこかよ(笑)」


「そりゃ、俺は今Rの為になることを1番に考えるからな」


洸介に言われたから行くというのは

何となく癪だったので、

出かける時には


「洸介!お前は休みだからってハメ外しすぎるなよ!!」


と釘をさしておいた。


洸介は笑っていて、

何の聞く耳も持っていない様に見えた。



そして、僕は久しぶりにみちさんの

家へと向かった。


たった1ヶ月しか居なかった家。

なのに、なんだかすごく懐かしく感じる。


みちさんは急に出ていった僕をどう思っているのだろう。


本当は、何度か花屋に電話しようかとも

思った。


でも、しなかった。


マリコさんが思い浮かぶと

僕には自信が無かった。


みちさんへの気持ちに。


そして、今みちさんに会ったら

自分自身の気持ちがどうなるのかも

まるで分からない。


だからか、夕暮れ時の今、

みちさんの家の前に着いても

僕はそこでしばらく立ち尽くしていた。




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