第16話

抱き合ったまま、

どの位の時間が経っただろう。


みちさんが言った。


「あったかいね」


「うん」


「私の事抱きしめたくなった事ある?」


「あるよ」


「好き?」


「…」


好きだよって言おうとした。



その時、


「そろそろ仕事に行く用意しなくちゃ」


そう言って、

みちさんの方から身体を離した。


「みちさん!」


「ん?」


「………いや、今日も仕事頑張って、ね?」


「なに、それ 笑」


何か言わなくちゃ、

どうにかしなくちゃ、

そんな風に思ったのに

何も出て来なかった。


みちさんは時間が無いと言って慌てて

身支度だけしてご飯も食べず

急いで出ていった。


「好き」って言葉に躊躇した僕がいた。

好きだよ、みちさん。

でも、分からないんだよ。

それがどういう種類のものなのか。


僕には決定的に何か欠けているのだろうと

どこかでうっすら感じていたことが、

ハッキリと形になった気がした。



その後も、ソファーに座ったままぼんやりと

時間が過ぎていった。


その時なんの考えもなしに見た、

部屋に貼ってあるカレンダーが目についた。


カレンダーには

みちさんの予定が書き込まれていた。

勿論、仕事の予定も。



そして、今日は休みになっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る