第15話

その日はさすがに反省会にも参加した。


例のプロダクションから正式に声がかかったからだ。


しかも、洸介が1番ここから声がかかれば… と願っていたところだった。


「カンパーイ!!」

今日は洸介のとりまき女子もいなくて

メンバーだけでの会だった。


洸介はこういう事はちゃんとわかっている。


「で、これからどうなるんだ?」

「そりゃ、メジャーデビューでしょ!」


みんな嬉しそうだった。


「洸介の顔がずっと緩んでる」

僕がそう言うと、

洸介が俺に抱きついてきた。


「おいおいおいおい!やめろよー」

「響太、ありがとう!!」

「は?」

「いや、何だかんだ言っても、

今日の響太見てたら行けそうな気がした!

始まる前は絶望的だったけど」


拓也と海人もニヤニヤしながら

見ていた。


そんな雰囲気に僕まで幸せな気分になった。


その日は深夜遅くまで、

反省会という名の宴会は続き、

終わったのは朝方だった。


さすがに僕は始発に乗って帰ることにした。


駅までの道、

洸介と並んで歩いた。


「響太さー、しばらく俺の家に来れば?」


「なんだよ、急に」


「だって、俺たち本当にデビュー出来るってところまで来てるんだよ?もう女の子の所にはいない方がいい」


べろべろに酔っていると思っていた洸介が

ヨタヨタ歩きながらも真面目な顔で

僕に言った。


「お前こそ、あちこち手を出してるの大丈夫なのかよ。お前の家に行った方が女の子ばっかりで治安悪い気がするんだけど」


「俺は今もう誰もいないよ。それくらい今に、Rに賭けてる」


「…」


洸介の今まで見た事ない本気が

伝わって来て、

僕は何も言えなかった。


「とりあえずそういう事。わかっといてね

響ちゃん」


その後はまた酔っぱらいの洸介に戻って

ヘラヘラしながら、

駅に着いて別れた。



そして、家に着いた僕は鍵の音がしない様にゆーっくり鍵を回し、ドアを開けた。


すると、みちさんがまたドアの前で丸くなって眠っていた。


「みちさん?!」


寝ぼけ眼のみちさんは

僕に抱きついて

「おかえり」と言った。


「ひょっとして、俺の帰り待ってた?」


「…待ってた」


「ごめん。今日は色々あって遅くなっちゃって。今日も仕事でしょ?歩ける?」


「歩けない」


「え?」


自分で聞いておきながら、

まさか歩けないと言われるとは思っていなかった。


結局、みちさんを抱き抱えてベッドまで

運んだ。


そして、ベッドに降ろして離れようとしたけれど、首に回っていたみちさんの手が

離れない。


「ちょっと、みちさん。離してくれなきゃ」


「響太くんてさー!性欲ないの?

一緒に寝ても何も感じないの?

気持ちは?気持ちは動かないの?」


「…急にどうしたの?」


「私は…私は!!」


みちさんはこの前と同じく

大きな声で涙も流していた。


でも、言葉はそこで止まった。


僕は穏やかでにこにこして

お互い楽しく一緒に暮らしていると

思っていた。


みちさんにとっても

恋愛とは違うのかもしれないとさえ

思っていた。


でも、そんなのはただの僕の願望だったのかもしれない。


「私は…の後は?」


「私は…」


「私は?」


「…何でもない」



そこで、僕はみちさんを抱きしめた。


「ごめん。俺どうしたらいいかわかんなくて

。これも間違ってる?」


みちさんは大きく息を吸ってから

「…間違ってない」

と言って溜息をしながら身体を預けてきた。


このままみちさんを抱くのは

きっと簡単だった。


けれど、そうはしなかった。





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