第14話

今日はライブの日だった。


この前、僕が帰った日にプロダクションから

名刺をもらったのを忘れていた。


「今日も見にくるって言ってたな」


洸介が浮き足立っていた。


「あー。うん」

と空返事の僕に苛立った様で


「お前さ、この先の事考えてないの?ずーーっと女のヒモで縛られて生きるわけ?

昨日は電話にも出ないし」


「別に」


そう僕が言った途端に洸介が

近くにあったゴミ箱を蹴飛ばした。


「別に?なぁお前分かってんの?お前にかかってるって」


「は?だったら、お前が歌えよ。なんでお前じゃないんだよ」


それを言った途端に両手で胸ぐらを掴まれた。


「俺でいいなら、俺が歌ってるよ!!お前じゃなきゃダメなんだよ!何年やってんだよ!そんな事もわかんねーのか!」


そこで、海人が止めに入った。


「はいはい、そこまで。ライブ前に殴り合いとか無いから」


海人は冷静で半分冗談っぽく、

この場を収めようとした。


洸介は、僕から手を離し

さっきのゴミ箱をまた蹴飛ばして

外に出ていった。


「響太さぁ、そろそろ自覚してよ〜。

洸介が怒るの無理ないと思うよ?」


それまで黙っていた

拓也がゴミ箱を片付けながら言った。




「前に出るのは洸介が合ってるじゃん。何であの時もっと何とかしてくれなかったんだよ」


今更言っても仕方ないことだと分かっていながら、不貞腐れてつぶやいた。


「お前がいて洸介がいて、海人がいて俺がいて、その中で歌うのはやっぱりお前だと俺も思うけど?

洸介が1番近くに居たんだから、1番それをわかってるんじゃないの?」


海人までが分かっていた風に頷いていた。


「……」

正直、僕と同じように

歌うなら、前に出るなら

洸介だろとみんな思っていると思っていた。


僕だけがいつも何も分かっていない気がして

情けなくなった。


そして、洸介はライブ前には戻ってきて

いつも通りのライブをした。


ライブ後の洸介はもう怒っておらず、


「何だかんだ言って、響太もちゃんと気合い入ってたじゃん」

と笑っていた。





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