第10話

溜息の後には、


眠るみちさんの横で、

ぼんやりと天井を見ながら、

虎のバターでホットケーキを食べるのはどんな気分なのかなんて事を考えていた。


「くだらないな」

そう独り言を口に出して

また溜息をつきそうになった瞬間、

チャイムが鳴った。


ピンポーン

ピンポンピンポンピンポンピンポン


尋常じゃない押し方のチャイムだった。


「みちー?みちいるのー?」


と言う声も聞こえている。


その間もチャイムは押し続けている。


放っておくとドアを蹴破りそうな勢いだった。


でも、みちさんは起きる気配がない。


仕方なく、階段を降りて

僕が返事をした。


「えーと、どちら様ですか?」


戸惑いながらそう言うと、


「誰?!」

と驚いて逆に聞き返してきた。


次に

「どうでもいいから開けて」

と高圧的に言うので仕方なく玄関のドアを開けた。


すると、そこに立っていたのは、

背の高い黒づくめ女性だった。

そして、その人は驚くほど綺麗な顔立ちの人だった。


ただ、髪が短くて一瞬男にも見えた。


あまりの綺麗さに呆然としている僕に

その人は、


「みちは?ってかあんたは?」


「あっ。みちさんは熱出して寝てます。

俺は…ここに住んでいるものです」


チッと舌打ちをして、

「悪いけど上がらせてもらうから」

そう言うとその人はズカズカと部屋に上がっていった。


そのまま、みちさんの所へ行こうとするので、


「今さっき、寝たばっかりなんで!!」

と最大の小声で僕は止めた。


その声にその人は階段を登りかけていたのを

やめた。


そして、リビングへ行ってソファーにどかりと座った。


僕がこの状況は

どうしたものかと戸惑いかけていた時に


「ちょっとこっちに座って!」


居心地の悪い中、

言うことを聞くしかない状況だ。


僕が仕方なしに座ると同時に


「あんた誰?」とその女性は聞いてきた。


もう居心地の悪さにも観念して、


「さっきも言いましたけど、ここに住んでいるものです。そう言うあなたは?」


その女性は僕の質問には答えず、

ボソッと「猫を拾ったって聞いてたのに」

と言った。


えっ???

みちさん…ひどいな。

僕のそんな顔を見てか、


「私は幼なじみ。一緒に働いてる」


「あぁ!花屋さんで?」


「そう。それ私の家の店。今日は定休日だからいいんだけど、電話しても出ないから心配してきたわけ」


「心配って…」

いい大人なのに電話に出ないだけで?


「あんた、みちからなんか聞いてるの?」


「は?なにかとは?」


「なんにも聞いてないならいい。」


意味ありげな言葉だけれど、

それ以上は何も聞けなかった。

というか、聞いた所で答えてくれる気がしなかった。


「帰るわ、みちによろしく」


そう言って立ち上がると、

ズカズカと玄関に向かって行った。


とにかく何をするにも早い。


ただ、ドアの前で急に止まり、

こちらを振り返ることなく僕に聞いた。


「一応聞くけど、あんたってみちの恋人なの?」


「…違う…と思います」


「あっそ!」


そう言うのと同時にドアがバタンと閉まった。





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