第9話

お花見をした日から数日、

またお互いすれ違いの生活が続き、

しばらくして、

みちさんは熱を出して寝込んだ。


「春先って毎年風邪ひいちゃうんだよね」


そう言って、

弱々しく笑った。


病院に行かなくても

毎回1日寝れば治ると言うので、

とりあえずアイスノンを頭の下に敷いて、

枕元にスポーツ飲料を置いて


「辛かったり、何か欲しいものがあったら呼んで。俺今日は1日隣の部屋にいるから」


「…ライブとかいいの?」


「今日はスタジオで練習だけだったから、特に俺行かなくても大丈夫の日」


「そしたらお願いきいてくれる?」


「なに?何か欲しいものとか食べたいもの?」


「…隣にいてくれる?」


「眠った方がいいよ。

俺がいるとゆっくり眠れないでしょ」


「眠れるまででいいから。それまで響太くんの話が聞きたい」


「俺の話?」


「そう。もう一緒に暮らして1ヶ月経つのに

お互いあんまり知らないでしょ」


「いいけど…じゃあ眠くなったら無理しないで、ちゃんと寝るんだよ?」


「はい 笑」


僕は布団に入り、みちさんの隣に枕を縦にして寄りかかった。


「えーと。俺の話か〜。何か聞きたいこととかある?」


「兄弟は?」


「いない、一人っ子」


「へえー、じゃあ大事にされて育ったんだ」


「まぁ、そうだと思う。母ちゃんすっごいスキンシップ激しくて、愛情表現がどストレートだった(笑)」


「お父さんは?」


「父ちゃんはふつー。仲悪くなった事もないし。」


「じゃあ、、お母さんの存在が色濃く響太くんに出ているんだね」


「どうだろ。俺感情表現薄いし、見た目はともかく中身は似てない気するけど」


「いや、響太くんに癒しのパワーみたいなのをくれたのってお母さんだと思うなー」


「癒し?」


「だって、響太くんは癒しの塊だから」


そんな事は思った事も言われた事も無かったから、唖然としてしまった。


「響太くんは気付いてないかもしれないけれど、私は響太くんにずっと救われてるんだよ」


みちさんの顔は、

熱で目がとろんとしていて、

今にも眠ってしまいそうだった。


けれど、みちさんは少ししんどそうに僕に顔を寄せた。


そして、キスをした。


「ごめんね」


僕達はキスさえも初日以来していなかった。


「なんで謝るの?」


その問いには微笑んで答えず

みちさんはそのまま眠ってしまった。


毎日一緒に眠っていても

みちさんの寝顔をこんなにちゃんと

見たことは無かった。


やっぱりみちさんも何か傷ついた後だったのかもしれない。

これまでの女の子達と同じで。


そう思うと、

無意識に溜め息が出た。


僕はいつまでも経っても同じところを

ぐるぐるとまわっている。


木の周りを虎がまわりつづけて、

バターになってしまう話が

ふいに思い浮かんで、


また溜め息が出た。
























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る