第7話

翌朝、目が覚めた時

みちさんもまだベッドの中で眠っていた。


そういや仕事休みだって言っていたっけ。


無意識にみちさんを引き寄せて

昨晩とは逆に僕が後ろから抱きしめていた。

そして、またみちさんの温かさを感じながら気がつけば眠っていた。



もう一度、目が覚めた時

ベッドは僕1人だった。


目を擦りながら、

キッチンの方へ行くとみちさんが

中庭で花に水をやっていた。


「おはよ」

そう声をかけると、

みちさんは何故かよそよそしくて

目も合わせずに

「もうおはようじゃないけどね」

と言った。


なんだろうか。


「みちさん?」


呼びかけてもこちらを見ずに、

「何?」

と答える。


僕がわざとみちさんの目線に入るように

回り込むと、また後ろを向く。


「どうしたの?」

何度も同じように目線に入ろうと試みたけれど、逃げられるので両手で顔を固定してみた。


みちさんの顔は真っ赤だった。


「ひょっとして風邪ひいちゃった?」


「違う!!離しーてー!!」


「あぁ、ごめん」


すぐ手を離すと、

みちさんはそそくさとキッチンの方へ行ってしまった。


何かやらかしてしまったのだろうか。


訳が分からぬまま、

顔を洗って歯を磨いた。


キッチンのテーブルには食事が用意されていた。


なにかしちゃったかもしれないと思うと、

こちらも気まずい。


「どうぞ召し上がれ。

今日はトーストにしちゃったけど、

響太くん和食じゃなくオムレツとかも好き?」


相変わらず目は合わせてくれないけれど、

普通に会話はしてくれたので

ホッとした。


「あぁ、うん。いただきます」


相変わらずみちさんの作るものは何でも美味しい。


けれど、言葉は少ない。


「ごめんなさい」

急にみちさんが小さな声で言った。


「え?」


「ただ…ただ恥ずかしかっただけなの」


「何が?」

僕はキョトンとした。


「目が覚めたら…響太くん…だったから」

「え?」


「だから、響太くんに抱きしめられてたから!!」


余計にキョトンとした。


「なーんだ。オレ何か怒らせるような事

やらかしちゃったかと思った。良かった〜」


みちさんはそれでもまだ恥ずかしそうに下を向いていた。


「でもさ、オレたちもうセックスしたじゃん。しかも、みちさんから…」

「わーわーわーわー!!!」


僕達の言葉をかき消す様にみちさんが叫んだ。


「変なの」

そう僕が言うと、

「響太くんには分からないよ」

とみちさんは少し寂しそうな顔をした。


でも、思えばみちさんは出会ったその日に

男を誘うタイプには見えないし、

生活してみてもそういうタイプではない。


現にあれ以来していないし。


食事が終わり、

僕が食器を片付けて洗い物をし始めると


「響太くんはいつも女の子の家で食器洗うの?」


「まぁ。作ってもらっているから、せめてものお礼かな」


「悪いヒモじゃないね」

と少しふざけた様にみちさんは笑った。


「私にとってヒモって

お酒飲んで暴れたり、お金せびったり

家に他の女の子連れ込んだり、そういう最低なイメージだったから」


「オレ、そんなイメージ持たれてたんだ 笑

…でも最低なのは合ってるよ」


「暴れてたの?」


「まさか。」


「じゃあ何?」


「好きになっていなかったから」


そう言うと、

みちさんの表情は一瞬だけ強ばった。


でも、すぐ元に戻り

「そっかー。あ、食器洗ってくれてありがとう」


と言って、背中を向けて拭いて食器を棚に閉まっていた。


「ねー、今日オレも予定ないから

これから川沿いの桜見に行かない?」


みちさんは急に元気になったかのように

「行く!!」

と喜んでいた。

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