第6話

今日は反省会(という名の飲み会)には

参加せずに帰ってきたので、

22時には家に着いた。


ちょうど寝支度をしていたみちさんが

少し驚いて、

「おかえり、早かったんだね」

と言った。


「あぁ、うん。寄り道しないで帰ってきたから」


「あれー?初めてギター持ってきた。

曲作りでもするの?」


「…忘れ物が戻ってきただけ」


「ふうん…あー何か食べる?用意しよっか?」


「ありがとう。でも大丈夫。みちさん寝るとこだったでしょ。寝てていいよ」


そう言うと僕はギターを置き、

シャワーを浴びに行った。


夕方に言われた

「響ちゃん、誰かを本気で好きになったことある?」

がずっと頭から離れないのだ。


僕は今までどうやってきたんだっけ…


望まれれば傍にいて、

違うと言われれば離れて。

時には罵られ、

でも最後は泥沼になることはなく

優しく手を離してくれた女の子たち。


そういった女の子達は

その後、

わりとすぐに結婚して幸せになったと聞いた。


僕は薄々感じていた。

好きだ好きだという彼女達こそ

僕の事を本気で好きだった人なんて

いないんじゃないかと。


ただ、その考えに辿り着いても

傷つかない僕がやはり最低なのか。


シャワーが終わり、

髪を拭きながら

自分の主体性の無さに今更ながら

ショックを受けた。


まぁ、いいか。

いつもの癖でそうやって

考えるのはやめて寝るかー。


そぉーっと、

ベッドのみちさんの横に入り

背中を向けて目を瞑った。


「ねぇ、響太くん」


「ごめん、起こしちゃった?」


「ううん、何か寝付けなかったし。明日は休みだから大丈夫。…それより」


「ん?」


「何か落ち込んでる?」


僕ってそんなに分かりやすいのか?


「いや、落ち込んでないよ。ライブも上手く行ったし、メジャーな事務所の人が名刺置いてってくれたみたいだし」


「そうなの?じゃー落ち込むどころかいい事があったんだね。良かった〜」


「…オレ、なんか変な感じだった?」


「気のせいかもしれないけれど…

少し寂しそうに見えたかな」


「そっか…あーそれより、みちさんて洸介の女の子達の友達じゃなかったんだね。

オレてっきりそこで出会ってたのかと思ってた。元々オレの事知ってたの?」


「バレちゃったか〜」


「えー?」


「Rのライブ観に行って、その帰りの居酒屋さんで響太くん見つけたの」


「Rのライブ、よく来てくれてたの?」


「うん。でも、Rの響太くんを好きになったんじゃなくて、響太くんを好きになった方が始まりだよ」


「その前から知ってたってこと?」


「まぁまぁ、そういうことかな。でもこれ以上は秘密。秘密が無いとつまらないでしょ」


正直、気になる。

みちさんと会ったことどこかであったか?

でも、これ以上聞いても答えてくれそうにはないので、聞くのはやめた。


そうしているうちに、

みちさんが僕の背中におでこをくっつけてきた。

そして、腕を回して後ろから抱きついてきた。


「今日はこうやって寝てもいい?」


「いいよ…」


みちさんと密着している体がとても温かい。


その内、僕とみちさん二人分の体温で

密着していないところも温かくなってきた。


今日の夕方の

「温かかったよ」

という言葉が過ぎった。


温かいというのは、

安らげるとか幸せな気分の事を指すのかもしれない。


もし、僕の思うそれが当たっていたなら

何だかとても救われる気がした。


どうして、僕は今までこの温かさに

愚鈍でいられたのだろう。


今日はみちさんの温かさのおかげで、

安堵の中眠ることが出来たのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る