第4話

みちさんとの同居が始まって、

早1週間。


特に不便な事はない。

食事は常に美味しいし、

みちさんが僕に何かを求める事は

ほとんど無かった。

体の関係も初日以来ない。


けれど、相変わらず僕らは一つのベッドで一緒に眠っていた。


最初、よく眠れないだろうから、

他の部屋で寝ようかとみちさんに言ってみたが他に布団が無いからと言われた。


僕は押入れの中に布団が1組どころか

いくつかあったのを知っていたけれど、

それは言わないでおいた。


みちさんは毎朝6時半に起きて、

食事や身支度をして8時頃に

出勤する。


僕は適当な時間に起きて、

みちさんの作りおいてくれてある

食事を食べる。


そして、夕方近くになると

バンドのスタジオ練習やら

ライブの為に家を出る。


なんとなく電車ではなく自転車で40分くらいかけて、通う事にしている。


そして、帰る頃には0時をまわっているので

みちさんは眠っている。


だから、平日みちさんと顔を合わせる事は

ほとんど無くて、ベッドの中で背中をくっつけて眠る時だけが唯一の2人の時間だった。



「お前が今一緒に暮らしてる女の子…みちちゃんだっけ?何繋がりで知り合ったの?」


スタジオで音合わせに集まっている時、

洸介が聞いてきた。


「洸介が連れてきたあのー、なんだけっけ。名前分からないけど誰だかの友達なんだろ」


「はぁー?あの時そんな子いなかったぞ。しかも愛菜に聞いても知らないって言ってたし」


「…てっきりいつもお前が連れてくる子の中の友達かと思ってた…」


「じゃあ、ライブ観に来てくれてたファンか?別に何でもいいけどさー、お前もそろそろ流されっぱなしでいると痛い目に合うぞ」


「お前だけはに言われたくない」


その会話を聞いていた海人達が笑った。


「確かになー。洸介には言われたくねーよな」


「オレは!自覚してるからいいの!相手もオレがそういう奴だと分かってているし。けど響太の場合は違うから心配してんの!」


「はいはい、ありがとうありがとう。洸ちゃん。」


洸介は何だよという顔をしつつも、


「真面目に言ってるんだからな。響太、優しいだけで一緒にいるのもたいがいにしておけよ。」


優しいどころか、

むしろ、僕は女の子を傷付けてきたのにな。


そんな時、スマホが鳴った。

知らない番号だけど見覚えがあった。


スタジオから出て電話に出ると

「響ちゃん…私」


つい最近まで一緒に暮らしていた女の子だった。


「響ちゃんギター置いたまま…」


「ごめん」


「渡しに行くから今日会える?」


「取りに行くよ」


「ううん、ライブも最後にまた観たいから。

17時にライブハウス前の喫茶店に行ってもいい?」


「うん」


「じゃあ、後でね」



電話を切ると無意識に大きな溜息が出た。


「響太、練習始めるぞー」

スタジオの扉から顔を出して洸介が言った。


「あいよー」


17時まではあと2時間近く。


僕はなるべくバンドに集中して何も考えない様にしていた。




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