第3話

目が覚めると一瞬ここが何処なのか

分からなかった。


ただ、そんなことは僕にとってよくあること

なので、また布団にもぐった。


すると、もぐった布団の中には女の子がいて、目が合った。


あぁ、この子の家に泊まったんだった。


彼女はもっと前から目を覚ましていた様で、

ぱっちりとした目で僕を見て言った。


「おはよう」


「……おはよ…てか今何時?」


僕はまだ開いていない目をこすりながら

布団を出た。


「もうお昼過ぎだよ」


彼女の言葉を聞いて、

部屋を見渡して時計を見つけると

12時半過ぎだった。


「じゃあ、そろそろ帰るや」

僕はそう言って着替えを始めた。


「えっ、とりあえずご飯食べようよ。すぐ作るから!」


彼女は僕に有無を言わさぬ様に

急いで台所に行き、

準備を始めたのだった。


なーんか、これって…。

僕が周りにヒモと呼ばれる様になった

いつものパターンに似ている。


正直、僕自身ヒモと呼ばれるのには

抵抗もある。


でも、いつもいつも女の子達は孤独を抱えていた。

それを僕を家に置くことで埋めようとしていたのだ。


だから、ヒモというかペット。


セックス有りのペット。


その証拠に彼女たちは僕の恋人になりたいとは一言も言わなかった。


「2番目でいいから」「帰ってきてさえくれたらいいから」

は常套句だったけれど。


そんな事をぼんやり考えていると、


「ご飯出来たよー」


とキッチンから声がした。


行ってみると、

鮭と昆布のおむすびに卵焼き、

きゅうりの浅漬け

そしてワカメと豆腐のお味噌汁。


それは短時間で作ったはずなのに、

完璧な朝食だった。


「すごい!!これ完璧!!

オレの朝食メニューの理想!」


そう言うと、

彼女はすごく嬉しそうに笑顔になり

照れてうつむいた。


朝方の積極的な彼女とのギャップに

とまどったけれど、

正直、腹はぺこぺこだったので


「いただきます!」


「おにぎりうまっ!!味噌汁もうまっ!!」


ガツガツ食べた。


「料理得意なの?」


卵焼きを頬張りながら聞くと、


「得意って言うか、いつもやっているから」


「ふーん、そうなんだ。めちゃくちゃ美味しいよ」


はにかむ彼女と食事をしながら

ぽつりぽつりと世間話をした。


セックスをしても、

一緒に風呂に入っても

同じ布団で寝ても

朝食を作ってもらっても

僕は彼女の事を何もしらないのだ。

名前さえも。



世間話から得た情報によると、


彼女の名前は

岸田みち。

年は25歳で、二人暮しをしていた祖母が

3か月前に亡くなり、

今はこの広い古風な家で一人暮らしをしているらしかった。


「仕事は?」

「近所の花屋で働いてる」

「あー、ここの庭もすごく花がキレイだもんね」


ここは典型的な日本家屋で、

ご飯を食べている場所から中庭が見えて

そこから春の花々が見えている。

彼女の祖母と彼女が丁寧に暮らしていたのが

よく分かるような家だった。


「ごちそうさまでした」


食べ終わると

食器は僕が片付けて洗った。


「ありがとう」


「それこっちのセリフ。泊めてくれた上に朝食まで。ありがとうございました」


「…もう帰っちゃう?」


「あー、かなり長居しちゃったしね」


「…」

彼女の沈黙が、今までと似ていて

デジャブの様な変な気分にさせた。


「じゃあ、まぁそういうことで」

とそそくさと玄関へ向かおうとした時、


「提案なんだけど!!」

と彼女が急に大きな声を出した。

その声の急な大きさに本人も驚いた様で

口を手で抑えていた。


そして、仕切り直してゆっくりと

「提案なんだけどね、」

「うん?」

「ここ私一人じゃ広すぎるし、君は今まで居た場所を出てきちゃったみたいだし…このままにここに住むって…どうかな?」


ひとつひとつの事情は違ってもデジャブのデジャブみたいだ。


「みちさん?」

「みちでいいよ。呼び捨てで」

「みちさん、オレのこと好きなの?」


みちさんは顔を真っ赤にして黙った。


「オレ、もうヒモ生活はさすがにやめようと思ってたんだよね」


「ヒモじゃないよ!家賃もらう!!3食付きで1000円ってどう?!」


「1000円て…1食作る材料費くらいじゃない?」


「だってね、ここはおばあちゃんの家だから家賃は無いし、私の肉親はおばあちゃんしか居ないから遺してくれているものもあって。だからね、全然大丈夫なの!!」


「…」


「それにね、一軒家に女が1人って何かと大変で…色々と手伝ってくれたら…本当…助かります」


さすがに今まで一軒家に一緒に暮らしてという女の子はいなかった。

いなかったけれどデジャブ感がやはり付きまとう。


「別に私の事好きじゃなくてもいいから、

ずっとじゃなくても少しの間だけでもいいから、お願いします」


最後は頭まで下げてお願いしてくる。


また僕の脳内で「まぁいいか」が始まってきている。


「あぁ…、じゃあ、はい。こちらこそよろしくお願いします」



こうして、また僕のヒモの様な

かろうじて1000円でヒモじゃない様な生活がスタートしたのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る