第8話

梅雨、依子は紫陽花の花を見ながら泣いていた。いつまでも晴れることのない雨のように。傘で顔を隠し静かに泣いていた。何か、何かを悟ってしまったように、只、静かに佇んでいた。

桜は傘も差さずに依子を見つめる。

表情は読み取れない。桜もまた只、静かに佇んでいた。


ある夜。依子は父と母の寝室を訪ねた。

リンドウの浴衣姿の依子は泣きじゃくりながら

「怖いの。お父様、お母様。怖いの、一緒に居て下さらない?怖いの。」

依子がこうして父と母に甘えるのは二人の記憶の中では始めての事だった。

三人は手を繋ぎ、川の字になって眠った。

父と母は依子を見えない何かから守るよう祈りながら眠りに就いた。

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