第3話
依子が十三になる頃の春、妹が出来た。
ある晩、依子の父が今日から一緒に暮らすのだと連れてきた。
「すまないが、私の子だ。依子と同い年なる。許してはくれないだろうか。」
その子の母親は流行病で死んだそうだ。
依子は只、屋敷の前の通りにある枝垂れ桜を見ていた。そこに、今にも泣きそうな母と依子に怯え、普段の威厳のない情けない顔の父、初めて会う異母姉妹。彼らが居るのか居ないのかどうでも良いようにジッと、その枝垂れ桜を見ていた。
「貴女の名前は桜でしょ」
「違います。私は絢子です」
「貴女の名前は桜でしょ」
依子は今度は強く言う。目を合わせて。
「貴方は今日から桜。返事をしなさい。」
「...。はい、桜です。」
この屋敷では、誰も依子に逆らわない。
「お部屋はどうしましょう。」
使用人が言う。
依子はまだ枝垂れ桜を見ながら、
「私と一緒でいいわ。」
ザワつく使用人たち。
「煩いわ。支度なさい。」
そう、言い放ち屋敷の奥へ消えていった。
それから桜は一切、依子に逆らうことをしなかった。
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