第二章

俺とアキは店内の入り口に立つ謎の女性に圧倒され、呆然としていた。

 なんだ?この女。

 身長は180センチくらいで、白いTシャツから割れた腹筋がうっすらと見えており、額には赤い角が生えている。

 そう、目の前には鬼の女性が突っ立っているのだ。

 動けば殺される。直感的にそう感じた。

 そして、俺はその鬼の女性が万が一襲って来た時ように、背中に隠してある銃を片手で握り、いつでも撃てるように備えた。

 鬼の女性は目を少し細くさせ、近寄って来た。

 うっ!!!殺される。

 俺は目を閉じると、

「君たちかわいいね~」

 その鬼の女性は俺とアキに抱き着いて、柔らかく大きな胸が丁度俺の胸に当たっていた。

 え?なに?

 この状況、健全な男子がみればとても羨ましい状態だろう。

 鬼の女性は俺とアキの顔を頬でこすり出し、俺は頭が真っ白になった。

「あ、あの~」

 アキは少し困り顔だった。

「うんうん、かわいいね~」

 鬼の女性は相変わらず頬でこすっている。

「ずみばぜん。少し苦しいです」

「ああ、ごめんよ。苦しかったかい?」

 鬼の女性はやっと俺とアキから離れ、様子を見た。

「いえ、平気です」

 アキと俺は膝のほこりを払い立ち上がると、

「あの、お名前は?」

「あたしか?スターベアーだ」

 スターベアー?日本語で星熊か。

 あっさり名前を教えた。

「私はアキ。隣に居るのはレイよ」

「アキとレイか、いい名前だな」

 スターベアーはアキと俺に握手した。

 スターベアーはかなり握力があるのか、握手した時、圧力を感じた。

「あの、もしかしてスターベアーさんもここで買い物を?」

 俺は恐る恐るスターベアーに質問すると、

「ああ、この世界にまともな店がないから来てみたのだが、どうやら外れの様だな」

 スターベアーは店に入った時から状況を理解していた。

「スターベアーさんはどんなものをお目当てで?」

「そうだな、街中にはゾンビがウロチョロしているけど、あたしはそんなに銃や剣を使わないから、威力の高い拳銃を買いに来たのだけど、どうやら品切れのようだな」

 スターベアーは品切れとなり、空の棚ばかりとなった店を見回しながら言った。

「そのようですね」

 俺はそれしか言えなかった。

「それより、こんなに品切れになるなんて珍しいな。何かあったのか?」

 スターベアーは腰に手をあて、首を左右に動かしていると、

「ボブ軍団が店のもの全て買い占めたらしいのよ」

 アキが言った。

「ボブ軍団?」

「迷惑ユーザーたちが集った軍団よ、この緊急事態になった時に品を全て買い占めたのよ」

「なるほどね」

 スターベアーは少しため息をついた。

「それよりアキさん、これからどうします?」

 俺はアキの方を向いた。

「そうね、警察署へ行きましょう」

「あの」

 俺とアキが次の目的地について話していると、スターベアーは手を上げながら。

「あたしも連れていってくれないか?」

 俺は少し驚いた。

「スターベアーさんも行きたいのですか?」

 アキが言うと、

「ああ、品切れにしたボブ軍団が許せないからな」

「なるほど、なら私達と利害が一致している訳ね」

 アキはスターベアーを見た。

「それに、一人で行動するには鬼のあたしでも危険だからな」

「それもそうですね」

 俺は納得した。

「スターベアーも一緒でいい?」

 アキは目を輝かせながら俺をみた。

「ああ、いいとも」

「いいってさ」

「ありがとー!!!」

 スターベアーはまるで子供のような大きな声で俺に抱き着いた。まるで日本に来たばかりの留学生を見ているようだ。

 えーい。苦しい。

 スターベアーが仲間に加わり、俺は新しい銃を手に店を後にすると、いきなりゾンビに囲まれていた。

「なんじゃこりゃ!!!」

 俺はかなり焦っていた。

「あ~、店にいる間に集まってきたようね」

「少し長居しすぎたな」

 スターベアーとアキは余裕の笑みを浮かべていた。

「あ、あの・・・どうします?」

 俺は自信なさげで言うと、

「ああ?殲滅するに決まっているだろう?」

「狩りの時間よ」

 スターベアーは腕を振り回し、アキは目を輝かせ俺を見ながらサブマシンガンを構えていた。しかも二丁。

「でも、ざっと50体はいますよ?」

「ええ?50体?イージーモードじゃん?」

 どうやら俺とアキの感覚はかなり違いすぎる様だ。

「ゴブリン千体倒すよりマシじゃね?」

 そう言ったスターベアーは右足を上げ、地面を勢いよく踏みつけると、地鳴りと共にアスファルトが砕け、俺たちの真っ正面にいるゾンビたちを吹く飛ばし、更にその後ろにあるタンクローリーを破壊し、大きな爆発音と共に、ゾンビたちは吹き飛ばされた。

「はえ~」

 俺は口を丸くし、真っ白になりながら見るしかなかった。

「さ~て、残りを殲滅するわよ!!!レイ!!!」

 アキは両手にあるサブマシンガンを構えると、横からやってくるゾンビたちに向かって乱射し、的確に頭を撃ちぬいていた。

「ほう、やるね~君」

 スターベアーはアキの腕前を見て感心していた。

 いや、感心している場合じゃない、生き残っていた一体のゾンビは俺に迫って来た。

「ちょ!!!おま!!!」

 俺は銃を構え、何発か撃ったが当たらず、ゾンビはどんどん俺の方へ迫ってきて、ついに組み付いてきた。

「うわああ、やめろ!!!放せ!!!」

 ゾンビの生臭い匂いに耐えながら、俺はなんとか噛みつかれないようにともがいていたら、

「ほら!!!ナイフ使え!!!ナイフ!!!」

「ナイフ?」

「それで緊急回避よ!!!」

 アキの声を聞いた俺は背中のベルトの方を手で触った。

 だが、あるのは革製のベルトだけで、ナイフらしきものは無い。

「おい!!!何もないぞ!!!」

 俺の声を聞いたアキは、

「あ・・・」

 アキは何かを思い出したような様子で、

「ごめん、回避アイテム渡すのを忘れていた・・・」

「馬鹿野郎!!!」

 俺は心底アキを恨んだ。

「チクショウ!!!」

 俺は首筋に噛みつこうとするゾンビに抵抗し、必死に手で身体を押していた。

 だが、体力に限界があるせいか、段々力がわかず、ゾンビの首を手で押さえるのがやっとだった。

「ダメだ、もうおしまいだ・・・」

 俺は手に力が入らず、ついにゾンビの首を押さえる事が出来なくなり、ゾンビは口を大きく開けた、

「噛まれる!!!」

 俺はそう思って目を閉じた時、鋭い何かが横切った。

 目を開けると、目の前で俺の首筋を噛みつこうとしたゾンビの首が綺麗に無くなっていた。

「えっ?」

 俺は何が起きたか分からず、ゾンビの遺体は俺にもたれながら倒れた。

 倒れた先に、刀を持った銀髪で白い着物に中は黒いポロシャツを着た男が、

「またつまらぬものを切ってしまった・・・」

 中二病臭いセリフを言うと、彼の後ろから。

「なーに格好つけているのよ?」

 ピンク色でホブの髪型、艶のある白い服を着た女の子がレーザーガンを持ちながら現れた。

「今決まったところだ」

「中二病かお前」

 女の子はキツイ口調で言い、少し黙っているとゾンビに襲われていた俺をみると。

「お前、大丈夫か?」

 男は俺の方を見て近寄って来た。

「ええ、大丈夫です」

「よかった、名前は?」

 男は名前を聞いてきた。

「ええっと、レイです」

「レイか、俺はギンザン。よろしく」

 まるでナンパされている気分だ。

 俺は死んだ魚の様な目を持つギンザンと握手を交わすと、後ろからピンク色の髪の女の子が現れ、

「な~にナンパしているの?」

「うるさい、自己紹介しただけだ」

「まったく、可愛い子には弱いんだから・・・」

 ピンク色の女の子がギンザンを睨んだ後、俺の方を見て。

「私はユキです。よろしく」

 ユキは目の前にいるギンザンを押し避け、俺に握手した。

「よろしく」

 俺は挙動不審になっていた。

「お前、ゾンビごときに随分てこずっていたが、まさか新人か?」

「ええ、まあ。そうですけど」

 目の前にいるギンザンに自殺する為に仮想空間に来たとは言えん。

「ふーん。だから何発も外していたんだ」

「ええ、まあ」

 ユキは俺を見て納得していた。

「いやいや、ゾンビなんか頭狙えばすぐ倒せるって」

「兄上、彼女は新人ですよ?」

「兄上?」

 俺はユキとギンザンを見た。

「私達兄妹なのです」

 ユキはきりっとした表情で俺を見た。

「そ、そうなのか?ギンザン」

「ああ、このクソ生意気な宇宙人アバターが妹のユキで、この、銀さん風アバターが俺ギンザンだ」

「銀さん?宇宙人?」

 俺は首を傾げていると、

「某有名漫画の主人公の事です。兄上はそれにハマっているのです、ついでに私はご覧の通り宇宙人アバターです」

 ユキは額に隠してあった触覚を長くのばし、上下に動かしていた。

「なるほど・・・」

 ユキの簡単な説明でなんとなく納得してしまった。

 俺はギンザンとユキと会話していると、アキとスターベアーがこちらに駆け寄りって来て、

「なーに油売っているのよ」

 ユキは俺を睨んだ。

「い、いや。ごめん・・・」

「ん?そのかわいい子は?」

 ギンザンはアキとスターベアーを見ていた。

「ああ、こちらが一緒に行動しているアキさんで、こちらがさっき出会ったばかりですが、一緒に行動するようになったスターベアーさんです」

「つまり男は俺だけか?」

「そ、そのようですね」

 俺は口をにやけ、鼻の穴を大きくしていつギンザンを見ながら答えると、

「これってハーレムじゃん?いや~ツイているな~、俺」

 現実世界の俺をみたらさぞかしガッカリするだろうな。

 俺はそんな事を考えながら思い上がっているギンザンを困り顔で見ていた。

「おいおい、あたしは蚊帳の外かよ」

 スターベアーは俺たちの方へ近寄ると、

「なんだ?おばさん?」

「ああ?いまなんつった?」

 スターベアーはギンザンの放った言葉を聞きき、鬼のような怖い表情になった。鬼だけに・・・。

「ああ?おばさんって言ったんだよ」

「ほう・・・この私を怒らせたいのかね?」

「ほう・・・この剣のマスターサムライと呼ばれるギンザンに挑むとはいい度胸だ・・・」

 スターベアーとギンザンはゾンビすら周りを寄せ付けない激しいオーラを放ち、俺とアキ、そしてユキも黙って見ているしかなかった。

 特にユキはなんとか喧嘩を止めようとオロオロしていたが、ギンザンとスターベアーの周りに近寄る事は出来なかった。

 そして、ギンザンとスターベアーは一瞬のうちに距離を取り、ギンザンの手には既に長剣が構えられていて、スターベアーは何時でもギンザンを吹き飛ばせるよう拳を握りしめていた。

 そして、二人は激突しようと勢いよく前に走りだそうとした時、激しい銃声が聞こえ、二人は一気にバトルモードから覚めてしまった。

「あんた達、いい加減にしなさい!!!」

 銃を空に向かって撃ったのはアキでギンザンとスターベアーに向かって怒鳴り散らした。

「でもこいつが~」

「こいつがあたしに・・・」

 二人は子供みたいな言い訳をしていると、

「今は争っている場合じゃないでしょ!!!」

「でも~・・・」

 スターベアーはかなりしょんぼりしていた。

「警察署へ向かわなければならないのに、ここで体力使ったら後がキツイわよ!!!」

「は~い・・・」

 スターベアーはかなりテンション低くして俺の隣に移動すると、ギンザンはアキに、

「なあ、お前たち警察署へ行くのか?」

「ええ、そうですけど・・・」

 俺はキョトンとしながら答えると、

「俺とユキも警察署へ向かうところなんだ、一緒について行ってもいいか?」

「私は構いませんけど、どうして警察署へ?」

 使い慣れない“私”を使って聞くと、

「ボブ軍団に行きつけの店の品を全部持ってかれてな、警察署へ向かったという情報が入ったので向かっていた時君たちに出会ったのさ」

 なるほど、俺たちと利害か一致するし、仲間が増えれば戦力も上がる。見たところこのギンザンという男、アキやスターベアーよりも強そうだし、剣の達人らしい。銃の達人に鬼の戦士、剣の達人に、宇宙人。かなり変わったメンバーだが、これだけ達人がいれば心強い。

 そんな事を考えていると、後ろにいたスターベアーがギンザンに向かって、

「はあ?なんでテメーらなんかと!!!」

 犬のように怒鳴ると、アキは振り向き、

「まあまあ、ここは押さえて・・・」

 と静止し、スターベアーは納得しないまま黙っていた。

「目的地は一緒だし、いいだろ?」

「ええ、構わないわ」

「私も・・・」

 俺とアキが答えると、

「なら決まりだな、後、飼い犬にしっかり首輪付けとけよ」

 ギンザンはスターベアーを見ながら言った。

「飼い犬ってあたしの事か?」

 スターベアーはギンザンに睨みながら俺とアキ、先頭にいるギンザンとユキの跡をついて行った。


 先ほどの交差点を北へ進み、ゾンビの大群に遭遇しないよう、裏路地を回っていると、大きな道路に出て、そこに美術館のような三階建ての建造物が見えて来た。

「ここが警察署よ」

 ユキがその建造物に指さした。

「ここが?」

「そうよ、設定上美術館を改装して作られたという設定らしいよ」

 アキは俺に説明した。

 なるほど、なんというかアクションホラーにありがちな設定だ。

「問題はどう潜入するかだね」

「なあ、正面から入れないのか?」

 俺はアキに聞くと、

「正面から入ったらボブにバレるでしょう」

「まあ、確かに・・・」

「正面以外から入る手段はないのかしら?」

 アキはギンザンの方を見た。

「たしか裏口があった筈だ、そこからなら入れるかもしれないな」

「で?その裏口とやらはどこにあるんだ?」

 俺は裏口について聞くと、

「正面玄関から見て東にある。だが、問題はどうやって入るかだ」

「と、いいますと・・・?」

 俺は聞き返すと、ユキが口を挟むようにこう言った。

「裏口へ行くには一度正面玄関の門を通らなければならないという事です、ですが、門をくぐった先に見張りが居る可能性があるかもしれないのです」

 なるほど、つまり裏口へ行くにもリスクが伴うということか・・・。

「それで、何か作戦はあるのですか?」

 俺は素朴な質問をすると、ギンザンはズカズカと正面玄関のある門の方へ歩きだし、

「そんなのねえよ」

「え?」

 ギンザンは門の前にいるゴブリンの見張りに、

「あ、ご苦労さん」

「あ、ええ・・・」

 見張りゴブリンはかなり無能なのかギンザンに挨拶され、普通に返事した次の瞬間。

「見張りの癖に甘いな」

 そう言ったギンザンは瞬時に刀を抜き、二人の見張りゴブリンの頭を切り落とし、消滅した。

「大胆だな・・・」

 俺は驚いていると、

「ムカつくけど、嫌いじゃないわ」

 スターベアーは目を輝かせながら大胆なギンザンを見ていた。さっきはかなりムカついていたのに。

 ギンザンは刀で鋼鉄の門をいとも簡単に切り、真っ二つにした。

どうやら正面玄関の周りには見張り一人もいないようで、その光景を見たギンザンは鼻で笑いながら、

「裏口を探す必要が無くなったな」

「え?」

 俺はギンザンの放った言葉の意味が分からず、眺めていると、ギンザンは正面玄関の扉を勢いよく蹴り飛ばした。

「お、おい!!!」

「何やっているのだ・・・」

 俺とアキはたいそう呆れていた。

 玄関の先には大広間が広がっていて、ボブ軍団の団員が20人ほどで、中央にボブと思わしき巨大なゴブリンが美女を囲まれながらふんぞり返っていた。

「なんじゃ!!!貴様は!!!」

 ボブはいきなり入って来た俺たち5人に怒鳴った。

「おお、お前がボブという奴か?」

 ギンザンはズカズカと広間に入り、ボブを睨みつけた。

「その通り、この俺がボブ軍団のボス。ボブだ!!!」

「そうか、てめえが店の品を買い占めてここで籠城している臆病でクソデブゴブリンという事か・・・」

 ギンザンはボブに対し煽っていると、周りにいる団員が一斉にギンザンに攻撃してきた。

 だが、ギンザンは刀でいとも簡単に団員を薙ぎ払い、団員に傷を負わせた。

「ほう、やるな・・・貴様」

「剣の世界のマスターを舐めるなよ?」

「なるほど、貴様“マスタークラス”のアバターか」

 マスタークラス?なんだ、そりゃ?

 そう思い、アキに聞いた。

「なあ、マスタークラスってなんだ?」

「仮想空間には称号があるの」

「称号?」

 俺は団員と戦うギンザンの様子を見ながら聞いた。

「ええ、射的や剣術、その他あらゆる分野に称号があり、得意分野を駆使してゲーム世界で功績を残すと称号が貰えるの」

「なるほど。それなら、ギンザンは剣術のマスターという事か?」

「その通り」

 アキの表情はかなりのドヤ顔で俺を見ていた

 そんな説明を受けている間、ギンザンは20人ほどいた団員を殲滅させ、美女を囲いながらふんぞり返っているボブに突っ込んでいた。

 だが、ボブは手を目の前にかざすや青いバリアーが現れ、ギンザンの攻撃を防いだ。

「何!!!」

 ギンザンは刀でバリアーを破壊できず、かなり動揺していた。

「ククク、残念だったな。俺は攻撃力に関しては皆無だが、防御に関しては貴様と同じマスタークラスなのさ」

「貴様・・・」

 ギンザンはボブと距離を取り、反撃に出ようとするも上の階から銃声が聞こえ、床に弾痕が残った。

「な、なんだ!!!」

 俺は驚いていると、アキに引っ張られ、近くにある倒れたテーブルに身を隠した。

「なんだよ!!!いきなり」

「馬鹿!!!上を見て!!!」

 アキの言葉通り上を見ると、なんと2階、3階から武装し、ガスマスクを被ったゴブリンが30人ほどいて、一階にはボブがいつ呼んだのか分からないが、署内を探索していた団員達が集まってきて、ギンザンや俺たちに銃口を向けていた。

「ちょっとヤバイじゃねーか!!!」

「今更?」

 アキは俺の平和ボケっぷりに呆れていた。

「で?どうするんだ?」

「とにかく反撃するわよ、銃持った?」

 既にアキの手にはマシンガンが握られていて、俺は慌てて残り数発しか入っていない拳銃を持って応戦することになった。

 俺はテーブルをバリケードに身を縮ませ、武装したゴブリンが持っているM4アサルトライフルの弾丸に被弾しないよう、警戒しながら少し顔を出し、銃を構えた。

 だが、あちらの方が俺より経験値が高いのか顔を出すとすぐさま銃声が聞こえ、俺は被弾しないよう顔を出しては引っ込めての作業で必死だった。

「ちょっとレイ!!!反撃してよね」

 アキは少し怒り気味だった。

「いや、素人がこのデンジャラスゾーンで応戦しろなんて無理ですよ」

「馬鹿野郎!!!貴様それでも衛兵か!!!」

「は?」

 俺は意味不明だった。

 なにせあちらはアサルトライフルやサブマシンガンに対し、俺は拳銃一丁でしかも弾切れ寸前なのに応戦なんかできるか?アクション映画の主人公じゃああるまいし、しかも被弾してログアウトできるならまだいい、だが、今はログアウト出来ない上、俺は初心者だ。できるわけない。

 そう自分を否定していると、ボブのバリアーを破ろうと必死になっているところを団員に取り押さえられてしまい、首にナイフを向けられていた。

「兄さん!!!」

 光線銃で応戦していたユキが叫んだ。

 ボブはギンザンを人質に取るよう団員に命令し、俺たち4人に顔を向けこう言った。

「この小僧が死にたくなければ大人しく武器を捨てろ」

 ボブは勝ち誇ったかのような顔で俺たちを見ていた。

「くっ・・・」

「仕方ないわね」

 アキとスターベアー、ユキは目を閉じながら両手を上げ、武器を捨てた。

 それを見た俺も大人しく両手を上げ、拳銃を捨てた。

「よしよし、聞き分けのいい女共だ」

 ボブは今更だが、ギンザン以外女だという事に気が付き、顔をニヤつかせた。俺たちをエロ同人事のようなあられの無いような事をしようと考えているのかかなり顔をニヤつかせていた。

「おい、この女共を俺の元へ連れてこい」

 ボブは俺たち女4人を指さし、団員たちに自分の近くへ連れてくるよう言った。

 団員達が俺たちの腕をつかんだとき、ボブはバリアーと解いていた。

 それを見た俺は一瞬、ある作戦が閃いたが、これをアキやスターベアー、ユキに伝えたらどんな反応するかちょっときになったが、まあ、現実世界では男である俺でしかできない作戦だった。いや、俺以外に適役がいないだろう。

 そんな悪巧みしながらボブの元へ案内されると、醜く、いかにもゴブリンの王って感じの整っていない顔と口から放たれる異臭が俺たちを襲った。

「うわ~くっさ・・・」

 アキも思わず口にしてしまった。

「フフフ、こう近くで見たらみなかわいい子揃いではないか」

「貴様!!!俺の妹になにかしたらただじゃ済まさん!!!」

 ギンザンは取り押さえられながらも今にでも飛びつきそうなくらい激情していて、充血した目でボブを睨みつけていた。

「黙っとれ負け犬が・・・」

 ボブはギンザンに言うと、取り押さえている団員が木の棒でギンザンの頭を勢いよく殴り、頭から血を流していた。

 ボブはギンザンの哀れな姿を見て、おそらく店で買い占めたと思われる牛肉の缶詰を開け、口を大きく開け豪快に食べた。

「さーて、まず誰から辱めようかな~」

 ボブは自分から見て左側から俺、アキ、ユキ、スターベアーの順番に並べ、俺たち、いや、俺たち女4人をジロジロみていた。

 ボブの口からよだれが滴り落ち、おそらくギンザンからしてみれば見ていられない光景だろう。

 そして、ボブは指をさした。

「まずはお前からだ~」

 ボブの指の先にはアキが居た。

「ええ!!!嫌よ!!!」

 アキは胸を隠すような体制で嫌がった。

「てめえ、その子も手を出すな!!!」

 ギンザンが怒鳴った。

確かに、それには俺も同感だ。

 こんな清楚で美しい女戦士があの醜いゴブリンの王にあんな事やこんな事をされる姿など見ちゃいられん。

「なんだ?おめーの彼女か?」

「いや違うが・・・」

「そこはイエスよ!!!イエス!!!」

 アキがギンザンの方を振り向いた。

「なら一番右にいる巨乳」

「はあ~あたし?」

「そうだ、はやく来いよ」

 ボブはやる気満々まーんで服を脱ぎだしていた。

「うわ~最悪・・・」

「なんだ~?負け犬の癖して」

 スターベアーもかなり嫌がっていた。

 俺は少し戸惑いながらも嫌がるスターベアーを見ていた。すると、おそらくボブの犠牲者であろう素っ裸同然にされた美女たちが俺たちを見て涙を流していた。

 仮想空間とは言え、この子達はそうとう辱しめを受け精神的ショックを受けたのだろう、そう考えるとアキやスターベアー、ギンザンの妹であるユキまで被害者にされたくない。そう考えた俺は何故か勇気が湧き、ボブにこう言った。

「私からやりなよ」

 この言葉にアキやスターベアー、ユキが目を丸くして見ていた。

「ほう、俺のような醜い容姿の怪物に抱かれたがるとはいい度胸だ!!!」

 ボブは大きな声で笑いながら指で団員に指示し、俺を近くに連れてきた。

「へへへ・・・、可愛がってやるよ」

 俺は上半身裸になったボブに腕で身体を当てられた。

 ボブの肌はものすごく汗臭く、しかも興奮しているせいか汗でべとべとだった。

 これは中身男ではないアキ達にとっては地獄だろう。

 しかもあんな事やこんな事までさせられるのだから溜まったものではない。某ダークファンタジーに登場するゴブリンに捕らえられた女性の気持ちがわかる気がするよ。

 そんな事を考えながら俺は好き者を演じ、ボブの乳首をかるくなでると、ボブは喘ぎ声を出し、団員達も顔を赤くしていた。

 そして、ボブは完全に油断し、俺にあそこをしゃぶらせようとズボンを脱ごうとした時、俺は小さな声で、

「この距離じゃ、バリアーは張れないな・・・」

「え?」

 ボブが俺の方を見た時、既に遅く、俺は勢いよく手で押し、ボブの股間を細長い足で蹴り上げ、ボブの局部にクリーンヒットした。

 ボブは大広間に亀裂をいれるくらい大きな声で叫び、アキやスターベアー、ユキはともかく、団員達や武装ゴブリン達も思わず耳をふさいでいた。

 そして、痛みに耐えかねついにボブはうずくまってしまった。

「ククク、作戦成功・・・」

 俺はドヤ顔でボブに近寄り、背中に隠してあったアキからもらった護身用銃であるグロック26を右手に取り出し、ボブの額に当てた。

「き・・・きさ・・・ま・・・」

「だましたな?とでも言いたいのか?」

「チクショウ・・・」

「悪いな、この状況であまりしたくないが、悪く思わないでくれ」

 俺は引き金を引き、ボブの額に鉛玉をぶち込んだ。

 ボブは吹き飛ばされあお向けになった後、消滅した。

「うわ、汗くさい・・・」

 せっかくアキからもらった服が台無しになった。

 俺はボブを倒し、振り向くと、顔を白くして俺を見ているアキとスターベアー、ユキ、そして、ギンザンがいた。

「みんな、どうしたの?」

 俺は絵にかいたような目を丸くし、口を台形にして眺めている4人に言った。

「お、お前、本当に女か・・・?」

「え?」

 ギンザンは股間を押さえながら完全にドン引きしていた。

「あの攻撃は女性でも痛いと思う・・・」

「う・・・うん・・・」

「痛い痛い・・・」

 アキとスターベアー、ユキはまるでコントをしているかのようにぼやいていた。

「い、いや、でもほら・・・倒したし、結果オーライでしょ?」

「まあ、でももう少しやり方を考えて欲しいな・・・」

 アキは困り顔で俺を見ていた。

 そんな事はさておき、気が付くと広間はやたらと静かになっていた。

 どうやらボブ軍団のボスが俺に倒されたと知り、団員達と武装ゴブリン達はどこかへ逃げてしまったようだ。

 その証拠にどこからともなく彼らの悲鳴が聞こえる。

 おそらくあてもなく逃げている最中にゾンビやこの署内に潜んでいるのだろうクリーチャーに襲われ食われているのだろう。そう考えた。

「それより、これってなんですかね?」

 ユキはボブが居た場所を指さした。

 ボブが消えた場所にメモの切れ端が落ちていた。

「なんだ?こりゃ?」

 俺はメモを拾うと、そこには署内から脱出できるヒントが書かれていた。

 その内容はこうだ

・ホールの女神像には扉があり、開けるのは三つのメダルが居る。

1つ目はタカ、2つ目はトラ、3つ目はバッタの3つである。

・ホールの女神像を開けると下水道の入り口につながっている。

・下水道の入り口はどうやら別の世界につながっているようで、入り口から見た限りダンジョンゲームのようだ。

・試しに手下のゴブリンに偵察させたが誰一人戻って来ず。


「なるほどダンジョンゲームか」

 俺はメモを読んでいると、俺以外の4人が集まり、こぞってメモを読みだした。

「女神像が下水道につながっているのね」

「なるほど、ダンジョンゲームにつながっている・・・か」

「でも3つのメダルが必要なのよね?」

 ギンザンとアキが勝手に会話していた。

「それより、まず武器だろう、この先何が潜んでいるか分からんし」

「そうだな、それじゃメダル探しに行きましょうー!!」

 スターベアーは俺の腕を引っ張り、ホールの周りを歩きだした。全く、困った奴だ。

 そんな事より、次は3つのメダルか、また面倒が増えてしまった。

 

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