友情

僕には一人の友人がいる。


名前は野山アキトという。彼とは高校時代からの付き合いで、どこかウマが合って現在まで関係が続いている。僕と同じく異性にモテず趣味は男児向けのおもちゃの収集で内面はかなり幼い。


僕もゲーム機のカラーバリエーション収集という同じゲーム機の色ちがいをひたすら集める第三者からすれば意味不明な趣味を持っているのでそのあたりで気があったのかもしれない。


つまり僕と彼は奇怪な趣味とモテない男という共通点があり、同士だと思っていた。しかし、彼はある日裏切った。彼は僕より先に恋人を作ったのだ!


+


今日は仕事が休みなので外へ出てバスに乗り街へ向かった。


僕の名は先々 アタルという。両親は宝くじが当たると願って名付けたのかと思うくらい変な名前だ。どうせなら百発百中という意味であってほしい(何がとは言わない)


僕の仕事はパートの事務員だ。その仕事柄あまり身体を動かすことはない。それだけの理由ではないが週末は運動のため積極的に外出している。


この街に眼の引くものがあるわけではないが、こうして外を歩いて景色を見て回るのは好きだ。


それに僕の趣味はゲーム機の収集だ。この辺りは中古ショップが多く、そこでゲーム機を探す。レトロから最新のゲーム機まで置いてあるが主に探すのはレトロゲーム機だ(最新はあまりカラバリが少ないため)外出の半分の理由はこのゲーム機収集にある。


とはいえ今日は特に買い物をするわけではないのでバスから降りた僕は目的地を設定せず気ままに歩いた。目につくのは大型スーパー、コンビニ、喫茶店、本屋、あとはどんな建物か想像もつかない。


こういうとき自身の知識と興味が反映される。目に映る理解できるものの種類は知識に比例する。景色や建物を見て関心と興味を抱けば己の人間性が分かる。そういった意味では僕はまだまだ浅い。


景色を眺めて歩いていると前方から一組のカップルが歩いてきた。20代くらいの男女でいかにも幸せそうだ。犯罪じゃなければ今すぐ男を川に突き落としたいところだ。


それで不意に頭をよぎったのは先日のアキトの話。


「アタル聞いてくれ。おれに彼女が出来たぞ!」


最初それを聞いたときはあまりにモテなくて現実と妄想がごちゃ混ぜになったのかと思った。僕は彼を憐れみながら、


「どうした?何か辛いことでもあったのか?」


と心配の声をかけたものだ。


「ちげーよ!人を異常者みたいに扱うな!ホントの話だから!」


最初は疑ったが、本気でそう言っていることに気付いた。


「じゃあお前、それ騙されてるんだよ。お前みたいに齢27歳にもなって男児向けのコマで遊ぶ男を好きになる女がいるわけないだろ」


「傷付くぞ!だがな、実はその彼女もそのホビーが好きなのだ!」


あのときの衝撃は今でも覚えている。


この男を理解できる女が現れただと!?


「お前・・・・・・マジなのか?」


「あぁマジだよ!やっとおれにも春がやってきたんだ。おれ絶対この人と結ばれるよ!」


その後のことはあまり覚えていない。残ったのは空しさと怒りだった。何故あのような男を好きになる女がいるのだ。あれがありなら僕もありだろ!


幸い僕には電子に強い友人がいる。彼に頼んで2人の仲を割いてもらおうか?(黒い感情)


そんなことを考えていると当の本人アキトが壁に寄りかかっていた。さぞ恋人が出来てウキウキしていると思っていたが、顔つきは明るくない。


「ようアキト、とうとう恋人にフラれたか?」


僕は軽口で声をかけるが、表情は変わらず暗いままだった。


「あぁアタル。実は彼女からメールの返信が来ないんだ」


「どういうことだ?」


それはどこか不穏な予感をさせた。


「今日の朝、彼女からプレミアのついたホビーが欲しいと言われたんだが手持ちがなかったらしく、それで金を貸したんだ」


「どれくらい?」


「50万」


アキトは泣きそうだった。


「あとで返してくれると思って彼女の口座に送金したんだ。だけど、それから返信がなくて・・・・・・」


「彼女の住所は知ってるか?」


「知らない・・・・・・行ったことないから」


事態は明確だった。


「お前それ騙されてるよ」


「やっぱりそうかな?」


恐らくその女はアキトの情報を集め、ホビー好きを装ってアキトに近付いた。そして女に免疫のなかったアキトはまんまと騙された。


「おれが・・・・・・おれが浮かれてたばっかりに」


アキトは自分を責めていた。


「アキト、お前は悪くない。悪いのはその女だ」


「だけど、金取られたのはおれがしっかりしなかったからだ」


アキトは騙されたことを自分のせいにしている。確かに騙されるほうが悪いという話もある。しかし、それを容認するわけにもいかなかった。


「アキト、お前が自分を責めるのはお前の勝手だ。だが、僕はその女を許すことはできない」


「どうするつもりだ?」


僕は言った。


「お前にひとつ聞くが、その女がひどい目にあってもいいと思うか?」


「・・・・・・いいぞ、おれが許可する」


期待通りの返事をもらった僕はポケットからスマホを取り出し、もう一人の友人に電話をかけた。


「マサトか?実は頼みたいことがあってな」


+


後日、アキトは騙し取られた金を取り返すことが出来た。


「アタル、ちょっと聞くが彼女に何をしたんだ?」


「どうした?」


「いや、彼女金返すときにすごい疲弊してたからさ」


アキトはちょっと複雑そうだ。


「簡単だよ。マサトに彼女の住居を調べてもらって、そのあと僕がいろいろ嫌がらせして根負けさせた」


マサトは電子に強くちょっと公にできない方法で調べてもらっていた。しかし無償ではなかったのでそのあたりは僕とアキトが割り勘で料金を払って頼んだ。


「具体的には?」


「千匹のG(自主規制)を放ったり、部屋の中をずぶ濡れにさせたり、扉の前に金返せって張り紙を張り付けた。引っ越しても再度調べてもらって嫌がらせした」


調べる度に料金発生してむしろ僕は素寒貧だけどな!


とにかく金は戻ってきたので事態は収まった。しかしアキトの表情は優れなかった。


無理もないだろう。初めて出来た恋人が詐欺師で金を取られかけたんだ。僕なら三ヶ月は落ち込む。


「あまり自分を責めるな」


僕はアキトの肩に手を置いた。


「僕たちはお前のためにやった。金も戻ってきた。これでこの件は終わったんだ」


「・・・・・・あぁ」


アキトは力なく笑った。


僕たちに恋人が出来る日はまだまだ先だった。



おわり


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