アベンジャーなモテない男たち

 「なあ、どうして世の中にはモテる男とモテない男が存在するんだろうな?」


 ふと俺は友人たちにそう問いかけた。


 俺、佐々木俊太郎は銀行員で、友人の岡部優は大手電気メーカーのやり手営業マン、さらに友人の柳原輝はプロ野球選手だ。


 そんな俺たちがモテないはずがない。こんなにも将来を有望視されていて、生活で不自由させることのない人材がここに存在するのに、世の女性というものは誰も見向きもしない。


岡部が口を開く。


 「逆に訊くが佐々木、お前は世の女性全てが男にモテると思っているか?」


 「それは・・・・・・」


 「そんなことはないだろう?女にだってモテる人とモテない人はいる。そこに男を当てはめてみろ。そうすれば答えはおのずと見えてくる」


 俺は岡部に言われたことを頭の中で反復し、考えた。モテる男とモテない男のその違いを。


 そしてひとつの答えにたどり着いた。それに気づいたのか二人は深くため息を吐いた。


 「そうか・・・・・・俺たちは・・・・・・」


 「そうなのだよ」


 柳原が沈黙を破った。


 「俺たちは・・・・・・そもそも女性に興味を持たれてすらいないっ!!!!」



 そもそも恋とは興味を持たれるところから始まる。


 モテる人間とはシンプルに人から興味を持たれやすい人種なのだ。そして俺たちのようなモテない人間は人から興味を持たれにくい。だからこそ結果的にモテないしモテない(大事なことなので二回言った)


 「だが、俺たちは共に優秀な職に就いている。銀行員に大手企業の営業マン、それに華のプロ野球選手。それらが興味を惹かないわけがない!」


 「確かにそれだけ見ればイケてるように見えるかもしれん。しかしな佐々木、女性の目はそんなに曇ってないんだよ」


 「どういうことだ岡部?」


 「どんなに輝かしい経歴を持っても、女性というのはその男の本質を瞬時に見抜くものなんだ。[あ、この人イケてないわ]って自分がモテないこと事実がすぐバレる」


 「なぜそんなことが分かる?」


 「お前とは踏んできた場数が違う。お前は経験したことがあるか?合コンに行く度真っ先に相手にされない苦痛を」


 「ああ・・・・・・」


 頻繁に夜、唐突に遊びに誘われるのはそういうことか。


 「僕からもひとついいかな?」


 「なんだ柳原?」


 礼儀よく挙手をした柳原。すると神妙な顔で口を開いた。


 「僕は確かに野球選手で、世間ではモテる印象はあるだろう。僕もプロになればモテると思っていたのだ。しかし、現実ってやつは冷たいやつなのだよ」


 「何があったんだ」


 「知らなかったか?野球選手ってのは試合に出てるやつしかモテないのだよ」


 「そういえばお前二軍だったな」


 柳原は野球選手といっても試合には未だ出されていない二軍選手だった。


 「だけどお前は一軍にさえ上がってしまえばあとはもうモテモテじゃないか。羨ましいぞこんちくしょー!」


 「簡単に言わないでくれ。一軍に上がるどころかクビにならないようにするのが精一杯なのだよ。僕からすればモテるモテないで騒いでいる君が羨ましいよ」


 柳原はどこか雰囲気が沈んでいた。岡部もどこか諦めたように柳原に同意していた。


 「簡単に諦めるなよ。きっと俺たちの魅力に気づく女性がいるはずだ」


 「もう無駄なんだ。俺たちには過ぎた夢だったんだ」


 「実現しない夢は綺麗ごとなのだよ、佐々木」


 「・・・・・・・・・・・・バカヤロー!!!!」


 突然の怒号に二人は驚いていた。


 「本当は諦め切れてないのに何諦めたフリしてんだ。お前らそんなんじゃ死んでも死に切れないだろ!」


 「いや、流石にそこまでの話じゃないだろ」


 「いいや、そこまでの話だ。死に際にお前らは絶対こう思う。あのとき付き合ってれば良かったって!!!」


 二人はそれ以上言い返してこなかった。


 「忘れたわけじゃないだろ?あの時の誓いを」


 「あの時の誓い・・・・・・」


 俺たちは思い出した。


 あの時の誓いを。



 学生時代、俺たち三人はよくつるんでいた。


 しかし、女性には縁がなかった。


 そのことをよく女子から馬鹿にされた。


 俺たちは悔し涙を流し、三人で誓ったのだ。


 絶対にあいつらよりいい女とお付き合いしようと。


 そのとき、あいつらを見返そうと。


 三人で誓ったのだ。



 「・・・・・・あの誓いを忘れるわけないだろ」


 岡部がそっと微笑む。


 「僕はあの時の屈辱を忘れた日はなかったのだよ」


 柳原はメガネを持ち上げて言った。


 「悪かったな。女に相手にされなさ過ぎて心が挫けそうになってた。だがもう大丈夫だ。俺たちはこんなことでへこたれない。行動さえしてれば、きっと出会える」


 「将来の不安からその誓いからも逃げそうになっていたが、僕たちは逃げるわけにはいかないのだよ。僕はそのために野球を頑張ってきたと言っても過言ではない」


 二人の目に光が宿る。俺たちは共に円陣を組んだ。


 「この先道は険しいかもしれない。しかし俺たちは一人じゃない。膝を付いたって仲間が手を差し伸べればいい。だから、決して諦めちゃいけない」


 「そうだ。女に相手にされないからなんだ。女は星の数ほどいるんだ。諦めるにはまだ早い」


 「逃げた先に女がいるわけじゃない。なら信じた道をまっすぐ進むのだよ」


 俺たちの決意は固まった。俺たちの戦いはこれからだ。



 「・・・・・・ねぇ、さっきから女女言ってるあの連中なんなの?」


 「さあ?モテないのこじらせて頭おかしくなったんじゃないの?」


 「ああいう男とは付き合いたくないわ」




おわり

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