-USS-

シオン

ニート万歳

 私には昔からの幼馴染がいた。その男は小学生の頃から成績優秀で、大人からの期待も高かった。将来を有望されていて、皆もそれを信じて疑わなかった。


 私もこいつは大人になったらすごい奴になるんだろうなぁって思っていた。同い年とは思えないほど落ち着いていて、どこか達観したような雰囲気をかもしだしていた。


 「くかー」


 その男は、今となってはゴミみたいなニートに落ちぶれていた。



 「こら!起きろ優也!」


 私は幼馴染の油木 優也を布団から引きづりだした。優也は眠いのか、布団から引っ張り出されても身体を丸めて2度寝しようとした。


 「二度寝すんなこのクソニート!」


 私は二度寝しようとする優也に2、3発蹴りを入れてやった。すると観念したのか優也はのそのそと起き上がった。


 「何するんだ・・・・・・君は人の睡眠を妨害できるほど偉いのかい?」


 「ニートに人権があるとお思いで?」


 「ニートだって人間であることに変わりはないでしょ?そういう意識が人種差別を生むのだよ智美君?」


 いけしゃあしゃあと屁理屈を垂れるこの男は東大に余裕で入学し、大企業に就職した一ヵ月後に何の惜しみもなく会社を辞めたのだ。


 卒業ギリギリでやっと就職先が決まった私からすれば嫌味でしかない。


 「あと私のことを馴れ馴れしく智美君なんて呼ばないで。ちゃんと苗字で呼びなさい」


 「今更鈴木さんなんて呼ぶ必要はないでしょ?何年の付き合いだと思っているの?なに?遅めの思春期かな?」


 「アンタと仲がいいって思われたくないだけよ!」


 学生時代、成績優秀なこの男と一緒にいただけでどれだけの誤解を受けてきたことか!


 ”あら、鈴木さんは今回のテストはいかがでした?○○点?あらあら・・・・・・”なんて、この男と一緒にいるだけで私まで優秀だと勘違いされたんだ。幼馴染でなければ25歳になっても甲斐甲斐しく世話なんかしない。


 「優也、今日こそ新しい仕事を見つけに行くわよ!アンタ一年も私の世話になって恥ずかしくないの?」


 この男は仕事を辞めたと思ったら私の住むアパートに上がりこんでここ一年私の部屋で惰眠を貪ることしかしてこなかったのだ。


 「智美君が頑張ってくれているから今僕は楽をしていられる。神に感謝せねばな」


 「そこは私に感謝しろよ!」


 「とは言ってもだ。君は人の意思を背いてまで労働を強いるつもりなのかい?それが人間のすることか!」


 「逆切れするな!」


 この男はいつもこの調子で人を煙に巻き、屁理屈で話をうやむやにする。今までの私は翻弄されてばかりだったが、今日という今日はそうはいかない。この男にはきっちり仕事を見つけてもらって私の部屋から出て行ってもらうのだ。


 「ちゃんと仕事見つけに行かなかったら今日のご飯は抜きですよ」


 「何を言っているんだい。いつもご飯の準備をしているのは僕じゃないか」


 そうだった・・・・・・仕事が忙しくてついこの男に頼んでしまうのだ。その上私は料理作れないから自分で作ることもできない。


 「本棚の本全て捨てますよ?」


 「全部読み飽きて処分しようとおもっていたんだ。手間が省けて助かるよ」


 「ぐぬぬ・・・・・・じゃあもうお小遣いはあげませんよ!」


 「衣食住さえ確保できればそれ以上は望まないさ」


 完敗だった。私にはこの男を説得することは出来なかった。


 「まったく、どうしてそこまで働くことを嫌がるんだろうね」


 「むしろそうまでして働こうと思うのがよくわからないね」


 優也はどんなことがあっても働くことを拒むらしい。そこで私はそうまでして働かない理由が気になった。


 「・・・・・・アンタさ、確かに昔から何考えているのかわからなかったけど、そこまで非社会的じゃなかったでしょ?あれからなにがあったのよ?」


 この男との付き合いは中学までだった。高校からは別の高校に行き(偏差値が違いすぎたのだ)去年の夏にいきなりアパートに押しかけてきたのだ。つまり高校から就職までの空白の期間があるのだ。


 その期間こいつになにがあったか私にはわからない。もしかしたら上司からパワハラに遭ったのかもしれない。学生までと違って社会人になってから上手くいかなくなったのかもしれない。飄々(ひょうひょう)としていても、こいつなりに悩んでいるのかもしれない。


 もしそうなら、頭ごなしに否定しないでちゃんと話を聞いてやったほうがいいかもしれない。だからこそこの男は私の元に来たのかもしれないわけだし。


 「特になにもないよ。ただ働くのが面倒になっただけ」


 「は?」


 「いやだってさ、毎日朝早く起きて同じ時間に出勤して、長い時間会社に拘束されて、あとは帰って寝るだけってそれどうかと思うんだよ。僕たちはただ会社のパーツ以上の価値はなくて、そこに個人の必要性はない。そう思ったらバカバカしくなって気がついたら辞めちゃった☆」


 「・・・・・・・・・・・・」


 「それでこの世の中を変えてやろうかと思ったけど、始まりから終わりまで、それにかかる時間と手間と資金と頭数とかいろいろ計算してたら途中で面倒臭くなってね。それで今に至るんだけどさ」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 そんな下らない理由で・・・・・・ここ一年も私は食わせてやったと思ったら行き場のない怒りに駆られた。


 「ん?どうしたんだい智美君?そんな怖い顔して」


 「この・・・・・・」


 「ん?」


 「つべこべ言わず働けこのクソニート!!!!!」


 「そげぶっ!!!!」


 怒りに任せて優也の顔面をぶん殴ってやった。


 その後、優也は顔が腫れて外に出られないという理由で結局ハ○ーワークには行かなかった。


 油木優也が社会復帰できる日は遠い。


おわり

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