第5話 気づき
小説を書く要素を、単語で書き出す事から始めてみた。
自分の気持ちを単語で、目に見えるようにするって、こんなに躊躇する事だったんだ。誰も見ていないのに、誰かに見られているようで、自分の本音を書き出せない。
SNS上ではフォロワーが、恋人が出来た事をほのめかしたり、「誰か」と一緒に暮らし始めた事を匂わせる呟きが増えている。
こういう事って、周りに浸透するのか、年代的なものなのか。結婚ラッシュとか、不思議と本当に、同じ時期に起きる。
祝福しなくちゃいけないのに、羨ましくて、辛くなる。
○
何だか最近、私、精神がボロボロだ。
そんな時、姉が娘を連れて家に遊びに来た。私の姪にあたる。名前は
梢は五歳で、お喋りが愉しいお年頃だ。毒気が一切無くて純粋で、癒される。
「絢未、スタバに行こうよ」梢が急に、云った。
スタバ? 多分姉と一緒によく行っているのだろう。しかし家からスタバは結構遠い。新商品が発売されたばかりだし、行列が出来ているかもしれない。スタバがテナントで入っている大型ショッピングセンター付近も、大渋滞が起きているだろう。
「梢、スタバ付近は危ないから、今日はやめておこう。近くのマックに行こうか」とりあえず、私はそう云ってみた。
「何でいつもそう云うの? スタバまで遠いから、愉しい事があるかもしれないよ」
梢の発言に、私ははっとした。
そうだ、確かに私はいつも、「行かない・やらない」理由を探し出す。
遠いスタバ付近が危険で、近場のマックが安全だという保障がある訳ではない。
危険も愉しいも、確率でいったら同じだろう。そんな計算、出来ないのだから。
深く考えない子どもの発言だから裏表が無い。だから心にすっと入ってきた。
「ママがね、絢未を誘えって云ったんだよ」梢が云った。
ん? 姉が? 私が姉の方を見ると同時に、姉が口を開いた。
「絢未、何だか落ち込んでるぽいから、とりあえずスタバでも行こうと思って。って、本当は、私が新作飲みたいだけなんだけどね」
姉は既に、スタバに行く準備をしている。……嬉しい。
誰も私の事なんて気にかけていないと思っていた。姉は久しぶりに会ったのに、気づいてくれた。私は胸が、じんとしていた。
「スタバ、行こう!」
○
スタバに向かう途中、「山が綺麗」とか「馬がいる」とか、梢は色んな事に反応していた。
私は、山も馬も、既にあると解っていて、いちいち感動しない。大人はそうだろう。
梢はきっと、辛い事も愉しい事も、全力で感じるのだろう。
私は最近、辛い事があっても、「小説のネタになるかな」と思い、気持ちの消化をしてこなかった。消化しないという事は、そのまま残るという事か。
感情には、その都度向き合わなくては、消化出来ないのではないかと思った。
本当は……私の本当の気持ちは……?
本当は、誰かに頼りたい。
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