第4話 バンドメンバー

 今日は、先日のライブ後、初めてのバンド練習だ。ライブから、一週間経っていた。

 しかしながら、「つんつん発言」が尾を引いている。私は練習に集中出来なくなっていた。


「絢未、どうした? なんだか上の空じゃない?」ベースの七瀬が云った。七瀬はビジュアル系のボーカルをやっているんじゃないかという位の美人だ。雰囲気も、まさにビジュアル系だった。メンバーじゃなかったら、話す事は無かったと思う。


 このままもやもやするのも嫌だし、バンドの事なので、私は先日の「つんつん発言」の事を云った。

 メンバーは、少し驚いた感じだった。これが丁度いい反応だと、思った。

 まるっきり関心の無い事では無いし、大騒ぎするほどの事でも無いと思うからだ。


「それだけウチラを見てくれてたんだね、その人」ドラムのくるみが云った。くるみはルックスが、メルヘンだ。目がくりくりしていていつも少し微笑んでいる。性格も、見たまんま、おっとりしている。


「絢未は悪口の耐性が無いからね」ギターの美夏みかが云った。美夏はルックスがギャルで、中身も中々ノリが良い、ほぼギャルだ。さっぱりとした性格で、思った事をはっきりと云う。


    ○


 バンド練習が終わり、そのまま解散した。練習後は、時々何処かでだべって過ごす事もあるけれど、今日はそんな気分になれなかった。

 美夏に云われた「耐性が無い」が、ずっと頭に残っている。

 悪口の耐性が無いという事は、悪口を云われた事が無い。つまり、存在感が無いという事……?


 美夏は積極的な性格なので、合コンなんかしょっちゅう参加している。見た目も私生活も派手目なので、時々陰口を叩かれるらしい。

 美夏は「悪口は、云われている方が主役だと、何処かの文豪が云っていた」と云い、気にしている様子は無い。


 とても羨ましい。私なんて、ちょっとした失敗でものすごく落ち込む。いつまでもいつまでも、小さい事を悔やんでいる。悔やんでも無駄なのは解っているけれど、止められない。

 こんな風に、いつも他人を羨んでいる。

 こういう気持ちも、小説のネタになるかな。一応、ネットで「小説・初心者・書き方」と検索はかけている。


    ○●


 スマホが鳴った。高校の同級生からメールが来た。

【来月結婚します! さすがに六月は式場とれなくて披露宴は未定だけど、報告だけ先にと思ってメールしました】

 文末に、笑顔とハートマークが付いていた。


 二十五歳、結婚、出産報告がチラホラ出てくる。そして【彼氏できた】報告も。

 正直、辛い。本当は、祝福しなくてはならないというのが、拍車をかける。


 辛い時は、大好きな歌手の曲を聴いて、立ち直ってきた。けれどもこの類の辛さには、効かないようだ。

 何故だろう。恐らく、相手ありき、の悩みだからだと思う。私には「誰か」が、いない。

 他人の気持ちや環境や運命を、操ったり変えたりする事は出来ない。

 私の辛さは、私だけで解決するのが筋なのだろう。


 他人を羨んでいるだけだ。もう少ししたら、嫉妬だ。こんな気持ち、情けなくて、誰にも云えない。……こうい気持ちを、小説に、書いてみるのはどうだろう。

 辛い気持ちが、本当は無かった事になるかのように、私は小説初心者サイトを熱心に見ていた。連日。




 

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