第3話 陰にならない陰口
五月の連休が終わった頃、自分たちのライブが入っている。
バンドメンバーは、ライブハウスで知り合った子とメン募で集まった子。四人組バンドで、歌が無いインストバンドをやっている。
バンド結成からは一年ほど経っている。二~三か月に一度ほど、ライブに誘われる。
私以外のメンバーはバンド経験も豊富で、楽器の歴も長い。私だけが、社会人になってから楽器を始めた。
四~五回ほどライブを経験したけれど、まだまだ余裕が無い。
○
今日のライブも、必死だった。五月は会社で、知識の衰えが無いかを確認する為の試験が実施される。
学科試験の勉強に時間を取られて、睡眠時間とバンドの練習時間を確保するのが大変だった。この間、仕事と勉強と練習しか、していない。
それもようやく終わる。試験勉強をしていたから、なんて理由にはならない。今日のライブは演奏に集中した。
まだまだ自分の演奏に満足は出来ないものの、ライブ後は何処かすっきりしていた。
試験勉強からの解放、という気持ちもあるのだろうか。
自分たちの機材を運び終え、次のバンドの転換中だった。一人でいたくないし、誰かと談笑する気分でも無かった。とりあえず廊下で、人混みに紛れようと思った。
誰もいない隅の方で、とりあえずスマホを開いていた。女の子の二人組が通った。
一人は鮮やかな黄色のロングスカートにグリーンのカーディガン。
もう一人はテロテロのベージュのトレンチコートにサイズの合っていないパンプスと、着られている感がする。多分大学一年生だろう。
「今の女子バンドのキーボード、つんつんしてて何なの」という声を聞いた。
今日出ているバンドで、メンバー全員が女子なのは、私がいるバンドだけだ。恐らくこの子たちは、私がその「キーボード」である事には気づいていないだろう。
今は新入生の時期なので、ライブハウスデビューする子も多い。
大学のサークルの先輩と同輩に囲まれて「ここは(今だけ)ホーム」と勘違いするのは、新入生によくある事だ。
私たちはアイドルではない。笑顔を振りまく必要は無い。
けれども、お金と時間を使って見に来てくれたリスナーにそう「思われた」という事は、原因は、私にあるという事になる。私がそう、「思わせた」事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます