第2話 私(絢未)のこと
私は三人兄弟の末っ子。
一番上は、姉。両親の初めての子どもで、それはそれは可愛がられて育ったらしいと、叔母さんから聞いた。
両親の愛情をたっぷり受けて育った姉は、とても素直な性格だ。それでいてハキハキとした口調で、活発な姉を嫌う人はいなかった。顔立ちも綺麗だった。
私より五つ年上の姉はもう結婚をして、子どもが一人いる。
二番目は、兄。兄は我が道を行くタイプの人間で、少し【普通】からは外れている。けれども自信を持って行動している兄は、色々と成功させてしまう。
地元のそんなに学力レベルが高くない高校に入学したかと思いきや、数年後には国立大学を卒業した。そして超美人のモデルの恋人がいる。
私より三つ年上の兄は、いわゆるエリートだ。
私はというと、姉と兄ばかりが両親に可愛がられているので、すっかりひねくれてしまった。表には出さないけれど、両親を、結構恨めしく思っている。
私が物心ついた時には、家族旅行をした記憶が無い。
姉と兄は、小さい頃よく家族旅行をしたと云っていた。
家にあるアルバムを開いてみると、姉と兄が一緒に写っている写真が多数出てくる。けれども私が姉兄と一緒に写っている写真は、数えるほどしかない。
「最初の子は、慎重に育てたり、溺愛したりするみたい。けれども段々と、手の抜き所が解ってくるみたいだよ」と、叔母さんが云っていた。
○
私は地元で会社員をしている。仕事内容は事務に分類されているが、実際はデータ入力が延々と続く流れ作業のようなもの。
恋人は、いない。というか、恋はいつも一人で盛り上がっている。最近近づいてくる男は、彼女出来たての奴等ばかりだ。
彼女が出来て嬉しくて饒舌になるのか、私が恋愛対象では無くなり安心して饒舌になるのかは解らないけれども。
揃いに揃って、「今までそれっぽい雰囲気を匂わせて頻繁に連絡をよこしておきながら、彼女が出来た瞬間疎遠になる」奴等ばかりだ。
それっぽい雰囲気に、私だって気づいていた。少しは期待もしていた。それがいきなり、あいつに彼女が出来たと第三者から聞く。
私はいつだって蚊帳の外。ううん、ちょっとはメンバーに、加わっていたんじゃないの? あなたの恋愛対象候補に。対象者が何人いたのかは解らないけれど。
けれども「それっぽい」「雰囲気」だけ。何も始まってはいないから、友達にだって云っていない。始まっていないのに、終わりだけは来る。この抜け道の一切無い虚しさ、解る?
私はこっそり、ものすごく辛い。そして、昔読んだ漫画で、失恋を美化したシーンを思い出して、自分を癒そうとする。それにちょっと陶酔している事は、後から気づく。
こういう想いを小説のネタにして、書いたら発散出来るかな……。
私の心の支えは、音楽。大好きな歌手がいる。辛くなってしまった時は、彼女のある曲を聴いて、ようやく一人で立ち上がる。そうして私は、回復してきた。これを何度繰り返した事か。
もう一つの支えは、ファッションとメイク。幸いな事に、私は用途に合わせたメイクが出来るので、「いかにも自分だけが不幸で大変」のような外見にはならない。
私はひねくれていて被害妄想が強くて後悔人間だ。せめて外見だけでも、ポジティブに近づけようとしている。
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