1-6 初めての異世界 終

「ま、まぁ得意度は得意魔法に限って言えば、使えば使うほど上がっていくから初期の得意度なんて、気にしなくても大丈夫よ」

 リリさんが普通の落ちこぼれなら、救いになるフォローをしてくれたが、今の私の状況だと全く役に立たない情報だった。


「でも私、魅了使うと殺されるんですけど」

 それを聞いてリリさんは、あっと言う顔をして慌てながら喋りだした。


「まだ話さないといけないことあるから、次の話題いきましょ! ね。」

 そう言ってリリさんは、今の話題から逃げるように何かを探し始めた。

 しばらく二人で、待っていると探し物を見つけだしたリリさんが、私の元に戻ってきた。

 リリさんの手に握られていたのは、一振の刀だった。

 ニクスが持っているのよりも大分大きく長めの刀。この形の刀は、太刀という名称だった気がする。


「これは、私のお母さん。異世界人の方のお母さんが唯一残してくれたものでね。現地人の方のお母さんがね言ってたの。『もし異世界からやってくる人が、いるならその人にこの刀を使って欲しい』って。だからこれをシキちゃんにあげるわ。名前は菊一文字則宗きくいちもんじのりむね

 そう言い終わると、リリさんは私に刀の渡してくるが、私は遠慮をする。


「ダメですって。こんな貴重な物私みたいな戦闘無経験の人に渡しちゃ、もっとちゃんと戦える人に渡さなきゃ」

 私はその刀をリリさんに押し返すが、リリさんも刀を私に押し返してくる。


「もらって!」

「もらえないですー!」

 そんなやりとりを何回もしていると、体力がない私の方が先に折れてしまった。

 息を切らしながら言う。


「わかりました。貰います」

 私が、そう言うとリリさんは飛び跳ねて喜んでくれた。

 でも、と私を喋りを続ける。


「私ホントに戦闘なんてできませんよ? ましてや刀なんて持ったこともないですし」

 まぁ女子高生が、刀での戦闘経験がありますって言ったら、怖すぎるので当たり前なんですけどね。

 するとリリさんは、あたかもこの質問を予想してたように自信満々に喋りだした。


「そんなことは、心配ないよ。ニクスとシキちゃんの二人には、明日から私の古い知り合いの武士の元で、修行してもらいます」

 え? 武士? そんな風に私が首を傾げていると、横にいるニクスが今まで見たことがないほどの、露骨に嫌な顔をしてリリさんの方向を見ていた。


「私もう、あの人のところ行きたくないんだけど」

 ニクスがどれほど人のことを、嫌うのかはわからないけど、私が思うに絶対に会いたくない人ナンバーワンなんじゃないかというぐらいには、思える顔をしていた。


「でもシキちゃんが、戦えないともしもの時大変だし。私は剣術教えらないし。あの子に頼んだ方がいいかなって思ったんだけど」

 その言葉で、ニクスは凄い悩んでいる。

 うーん。と頭を下にしたり上にしたりと、色々動かしながら悩んでいる。

 しかしそんな変な動きも止まり、ニクスは何かを決めたようだった。


「わかった。行く。もう一回修行つけてもらえるいい機会だしね」

 そうニクスが言うと、二人は私の方を見て言った。


「「それじゃあ明日から」」

「修行頑張ってね」

「修行頑張ろうね」

 そこで、私は今のやりとりの最中には入る隙がなかったので、気になっていたことを問いかける。


「私の意見は?」

 しかし二人ともまさかの知らんぷり。

 しかもすぐに話題を変えてしまうリリさん、この時私はもう発言権はないんだなと直感した。


「そ、それでシキちゃん。その刀には名前つけないの?」

「え? 名前ですか? でも名前ならさっき教えてもらったやつが」

「それでも良いんだけど、せっかくならあだ名? みたいなのとかつけてみたらどうかな?」

 あだ名か。確かにさっき教えてもらった菊一文字則宗もいいけど、少し長いし男っぽいしで、なんか可愛い名前がいいなー。

 私がそんなことを考えていると、横からニクスの声が聞こえてきた。


「私もこの刀名前つけてるよ。日向正宗ひゅうがまさむねだからせいちゃん。どう? 可愛いでしょ」

 確かに可愛い。私もニクスに負けじと一生懸命考える。

 頭を抱えて考える。

 すると頭に考えが、落ちてきた。


「菊一文字だから。お菊にする」

 刀に名前をつけるなんてちょっと、申し訳ない感じがするけどまぁ大切に使えば、許してくれるよね。

 私はなんだかこの刀に愛着が湧いてきたので、刀で頬ずりをする。


「これからよろしくねー。お菊ー!」

 横から視線が感じなくもないけど、そんなことは気にせず、ふと腕時計を見てみると人間界の方の時計が、夜七時を指していた。

 私は、慌ててニクスとリリさんに、声をかける。


「ごめんなさい! 私一回私の世界帰ります!」

 大体夜の七時半から八時の間ぐらいに、部屋の前で親から話しかけられるので、そこで話を返さないと、心配を今よりももっとかけてしまうかも知れないので、私は慌てている。

 するとリリさんは、そう? という感じだったかニクスは、なぜか目に涙を浮かべていた。

 そのまま私に抱きついてくる。


「絶対こっち戻ってきてくれる? もう一人のおばあちゃんみたく突然いなくなったりしない?」

 私はそんなニクスを見ながら気遣いが足りなていなかったかな? と反省しつつニクスの頭を撫でる。


「大丈夫絶対明日も来るから。明日一緒に修行始めようね」

 それからニクスが、私の体から離れるのを確認してから、運転手さんに貰った切符を空に掲げた。

 すると目の前に写っていた景色が、全て真っ白になり気づくと自分の部屋で立っていた。

 気づいたらすぐにその場にいるのは、バスが発車した時もそうだったけど、帰りはそれ以上に早かったかもしれない。

 腕時計と切符は持ったままで、帰ってこられたようで安心した。

 するとそのタイミングで、部屋のドアを叩く音が聞こえた。


「雪璃。起きてる?」

 私は、異世界なんて行ってない、ただ今日も引きこもってた。

 そう言うようにいつも通りに返事を返す。


「起きてるよお母さん」

「そう。今日も変わりはなかった?」

「うん大丈夫」

 お母さんとしては、むしろ変化があったと行って欲しいのかもしれない。

 それがもし悪い変化だとしても、娘が変わり始めている証拠になるのだから、気持ちはいくらか楽になるのだろう。

 けど私はうんとしか返事が、できない。

 いつもはここで、会話は終了するのだけど今日は、違った。

 まるで私が異世界に行ったことによって、時計の針が動きだしたような気がした。


「それでね。提案なんだけど、一回部屋から出てみない? 一歩、一歩だけでいいから出てみない?」

「無理」

 その一言だけでも、私にとってはいつもは発さない言葉。

 いつもは絶対に親には言わない言葉。


「そう。また明日ね」

 帰る時のセリフは、いつも通りの言葉を行って私の部屋の前から、帰っていった。

 その会話が終わると、私はいつもよりも早い時間にベッドに入っていく。

 異世界で疲れてしまったのだろう。

 異世界。ホントに異世界に行けてしまったのか。

 そんなことを考えながら眠りにつく。

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