1-5 初めての異世界 五

「それで、その別の世界から来たって人は、最後どうなったんですか?」

 私は、ニクスのことはなるべく気にしないようにして、リリアンヌさんに質問をした。

 ずっと二人は、おばあちゃんおばあちゃんとまるで、おばあちゃんが一人しかいないような感じで、喋っていたので気になってしまった。

 するとリリアンヌさんは、少し口ごもりながら答えてくれた。


「私のもう一人のお母さん。別の世界から来た人はね、私が生まれてすぐに別の世界に帰ったかと思ったら、それ以降この世界には来てないって、お母さんが言ってたの。だから私、もう一人のお母さんの姿知らないの」

 二人とも、顔を下に伏せてなにやら重い雰囲気に私の周りは、包まれてしまった。

 私は、とっさにに二人に謝る。


「申し訳ないです。配慮にかける言葉でした」

 私はそう言いながら、頭を下げる。


「いや大丈夫だよ。ユリが謝ることじゃないよ。悪いのはあの異世界人なんだから」

「そうよ。悪いのはもう一人の私の母親、シキちゃんはなにも悪くないわよ」

 二人は私を、庇ってくれた。

 ごめんなさい。心の中でもう一度謝っておく。

 なんか異世界人の方には申し訳ないなとは、思いつつも席に座りなおす。

 座ると同時に考えてしまった。

 だからさっきのおばあちゃんの話で、結婚相手のことをニクスのおばあちゃんは、あの女とか言ってたのか。

 すると私が、席についたタイミングでリリアンヌさんは、そうだ! と言わんばりに喋りだした。


「そういえばもう、シキちゃんは得意魔法は調べたの?」

「魔法ですか?」

 聴き慣れている単語ではあるけど、この世界に来てからは初めて聞いた単語だったので、私は首を傾げる。


「あれ? さっき私が魔物倒すとき、ユリ見たなかったの?」

 驚いた表情で言う、ニクスに私は謝りながら返答する。


「ごめん。早すぎて何やってるかなんてほとんどわかんなかったよ」

 するとニクスは「そっかー」と呟いて席から立ち上がり、そのまま喋り続けた。


「じゃあ今から魔法。見してあげる」

 そう言うとニクスは、腰の鞘に挿してある短刀を抜くと、そのまま片手で持ち自分の前に持っていくと「はっ」と声を上げた。

 その声とともに、刀の刃の部分に青く透明なオーラのようなモヤモヤが、刃を覆っていく。

 そのオーラは、だんだんと長さを伸ばしていき最終的には、元の短刀よりかは少しだけ長くなってようなところで、オーラの動きは止まった。

 今の短刀は、もう水の刃そのものになっていた。

 すると魔法が、終わったのかニクスが喋りだした。


「どう? これが私の魔法」

 私は、自然と拍手をしていた。

 凄いカッコいい。刀を魔法で覆ってそのもの自体にするって、カッコいい。

 拍手で照れている、ニクスに私は気になっていることを質問する。


「でも私のイメージする魔法って、なんか玉を作って飛ばしたり回復したりとかのイメージなんだけど、ニクスがしたみたいなのがこの世界だと主流なの?」

 するとニクスは、照れていた表情を普段の表情に戻して、説明を始めた。


「いや。ユリのイメージで間違ってないよ。基本的にはユリのイメージ通り。私は単純にあんまり遠距離で戦うのが好きじゃないからね。この武器で戦おうってなると武器自体を強化しないとってなっただけ」

 なるほどと、数回頷き私はリリアンヌさんにも質問をする。


「それじゃあリリアンヌさんは、どんな魔法使うんです?」

 するとリリアンヌさんは、人差し指を横に何回か振ると少し叱るように言ってきた。


「シキちゃん。私のことはリリで言いわよ。リリアンヌだと長いでしょ」

 それならと、お言葉に甘えて私は名前を呼んでみる。


「リリさん」

 横から視線を感じるので、なんとか話を戻してもらう。

 怖いよ、横の人。


「あーそうだったわね。私の魔法は、風魔法よ。ニクスみたいに武器を強くしたりはしないただ、普通に風で遠距離から斬り刻むって感じかしらね」

 若干最後の方に、怖い言葉が聞こえたけどスルーして、頷いているとニクスの説明が再開された。


「それでね。魔法は、私とお母さんのもの以外にも三種類あってね。火、暗闇、魅了、の三種類と私とお母さんの、水、風を加えた計五種類があるって感じかなー。まぁ魔法の使い方は各々好きに使ってるから、属性自体は少ないけど、色々な種類があるようには見えるかな」

 その説明を聞いて、ホントにここ異世界なんだなーっと考えていると、説明し忘れたことがあってのか、ニクスがもう一度喋り始めた。


「それとね。魔法は五種類なんだけど、個人によって魔法の得意度みたいのがあって、その得意度は一から五で表記されるの。例えば私が、一番得意な水が、得意度三、お母さんの風が、得意度五。ってな感じ。わかったかな?」

 多分理解は、できてるけど一応確認をニクスに問いかける。


「その人の一番得意な魔法の得意度が、高ければ高いほどその人は強いってことで、合ってる?」

 その私の確認を聞いて、ニクスは親指を立てて言った。


「バッチリ」

 するとニクスは、それじゃあと言って喋りを続けた。


「ユリの魔法調べよ! 立って立って」

 そう言いながらニクスは、私の腕を掴み急かすように立たせた。

 そしてそのまま私を、リリさんの元へと連れていくと一歩下げって、リリさんに一言言う。


「お願い」

 と。

 その声を聞いて、リリさんは私の目の前に手を置くと、何かを呟いた。

 その瞬間私の目の前が、真っ白になった。この世には何もない。そして誰もいない。

 まるであのバス停があったところのようなそんな気がした。

 しかしそんな考えもつかの間、私はすぐに元の光景に引き戻される。

 そして目の前を見ると、何か申し訳なさそうにしているリリさんの姿があった。


「終わったわよ。シキちゃんの得意魔法は、わかったわ。わかったけど、私も始めて見るはこんな人」

 そして、私が唾を飲み込んだ瞬間リリさんの口から告げられた。


「シキちゃん。あなたの得意魔法は、魅了よ。そして得意度は、一よ」

 私は首を傾げる。

 一が平均的な数字なのか、全くわからないからだ。

 するとそんな私の姿を見かねてか、リリさんが追加で説明をしてくれた。


「魅了って言うのは、五種類の属性の中でも得意魔法になる人は、数が少なくてね。けど少ないからって得意度の平均が低いかって聞かれるとそうでもなくて、普通は四から五どんなに低くても三ぐらいにはなる属性のはずなんだけど、シキちゃんは二でもなく一だったから、私驚いちゃって」

 え? 私ザコってことじゃん。

 なんで? 異世界に来た人は強くなる決まりじゃん! ねぇ神様! ねぇ!

 すると後ろから視線を感じる。

 私を笑う視線、ザコだって笑う視線。

 そう思いながら後ろを向くと、いつものように私を睨みつけているニクスの姿があった。


「どれだけ得意度が、低くても私以外に魅了使ったら、本気で殺すからね」

 この時だけは、ニクスの殺すが救いの言葉に聞こえた。

 だって弱い私を笑うわけじゃなくて、むしろ気遣ってくれていて、心配もしてくれるわけでしょ? 可愛すぎない? やきもち焼いてくれてるんでしょ? え? 好き。

 もちろんそんなことは、声には出さないけど私はニクスに抱きついた。


「ありがとうニクス。笑わないでくれて。ホントありがとう」

 私は涙を垂らして、ニクスの頭を撫でながらお礼を言う。

 するとニクスは、睨んでいた表情を照れた表情に変えて喋りだした。


「べ、別にお礼を言われることなんて、私はただどれだけ得意度が低くても、私以外にユリが魅了使ってるのなんて許せないだけだから」

 それでも私は、お礼を言い続ける。

 だって元の世界でもずっと引きこもってたから、これだけ好かれることなんてなかったから。

 まぁ少し好かれすぎてるところがある気が、するけど。

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