1-4 初めての異世界 四
そんなボンキュボンな女性と、ニクスを思わず見比べてしまう。
何回も何回も、その度にデカっと思える。
もちろんニクスじゃなくて、その女性の方ね。
すると何回も見比べている私を、ニクスは睨んでくる。
さっき魔物に見せた睨みと、同一の目をしていた。
「ねぇーユリ今、私の胸見て。ちっさって思ったでしょ?」
完璧にニクスが、怒っている。
私はすぐに首を横に何回もふるが、そんな抵抗も虚しく、ニクスはすぐに近づいてくる。
「思ったでしょ? 思ったよね。ちっさって思ったよね。ごめんね小さくて、ホントごめんね。でもお母さんがあれだけ大きいんだし、私も将来はあんだけ大きくなるから。とりあえず一回し・ん・で?」
嘘だよね? 最後の言葉は嘘だよね? ねぇー!
ニクスは腰元に手をかけたその時、後ろから微笑みが聞こえてくる。
「ふふふ。ニクス楽しそうね」
これが楽しそうなの? 大丈夫? この世界ホントに大丈夫?
そんなことを考えていると、その女性の喋りは続いていた。
「でも、友達に死んでなんて言っちゃダメよ」
当たり前のことを言っているだけなのに、私にはその女性が聖母に見えてきた。
ありがとうニクスを止めてくれて、ありがとう。
「わかったよ。お母さん」
そう言ったのは、ニクスだった。
え? お母さん? あの聖母がニクスの母親?
一瞬見比べてしまったが、その瞬間ニクスは私を睨みつけてきた。
怖いよ。ニクス怖いよ。あの運転手さんなんか比にならないぐらいニクスヤバイよ。
私は誓った。もう絶対ニクスの前で胸の話はしないでおこうと。
「それじゃあとりあえず座ってくれる?」
ニクスのお母さんは、そう言って私をリビングらしき部屋の机の前に案内した。
そこに座ると、お母さんが自己紹介を始めてくれた。
「私は、リリアンヌ。ニクスの母親よ。あなたは? 名前なんていうの?」
ニクス同様、母親も姓は名乗らなかった。
しかしそんなことは、深く考えずに私も、自己紹介を始めた。
「私の名前は、四季 雪璃です。一応別の世界からやってきた人間です」
私の、自己紹介が終わるとニクスがなぜか私を急かすように、喋りだした。
早く見てほしいと言わんばかりの勢いだった。
「お母さんこの時計見て!」
そう言いながらニクスは、私の右腕を机に乗せて、この時計がお母さん、リリアンヌさんに見えるようにした。
時計を見たリリアンヌさんは、今までのおっとりとしたイメージからは、想像できない速さで私の腕を見てくる。
「これおばあちゃんが言ってったって言う、あの時計だよね!」
ニクスの声を聞いても、リリアンヌさんはじっと私の右腕についている時計を見ているだけだった。
まるで何かに取り憑かれているような、そんな感じで見ている。
私はなんだか気恥ずかしくなり、リリアンヌさんに声をかけた。
「あのー。リリアンヌさん。説明が欲しいんですけどー」
するとリリアンヌさんは、正気に戻ったようで、右頬に手を置きゆっくりと喋りだした。
「ニクスやっぱりこの時計。おばあちゃんが言ってたものだと思うわ。子供の時に聞かされた話だからもしかしたら間違ってるかもだけど」
おっとりした雰囲気に、戻ってくれて私が安心していると、リリアンヌさんとニクスは、真剣な表情で私に話しかけてきた。
「昔ね。私のお母さん。ニクスのおばあちゃんが子供の時、今のニクスと同い年ぐらいの時あなたと同じ時計を持つ女性が、この世界にやってきたの。そして私のお母さんと仲良くなったその女性は、私のお母さんと結婚して、その間に生まれたのが私」
最初の方の話は、まぁ私が異世界に来れてる時点で他の異世界の人が、異世界に行けてもおかしくはないとは思って聞いてたけど、最後の何?
私は勢いだけで、質問する。
「待って。この世界って女同士で子供作れるの?」
私の質問に、二人は当たり前のように頷いた。
するとニクスが答えてくれた。
「そもそも男性って概念を持っている人の方が、少ないよ」
「ホントに?」
「うん」
え? なにそれここ天国じゃん。
そもそも男って単語が出てこないってことでしょ?
ありがとう運転手さんここ連れてきてくれて。
「それでその女性の方は、何をしたんですか?」
私は何気なく質問した。
だってリリアンヌさんが話してくれた内容だと、ただこの世界にきてただニクスのおばあちゃんと、イチャイチャして子供作ったってだけの人だしね。
ただ私の予想は、完全にあたっていたらしい。
リリアンヌさんは言った。
「別に何もしてないわよ。この世界にきてお母さんとイチャイチャして、子供作ったってだけの人」
「ホントにですか?」
「うんホントよ」
私は唖然とした。呆然とした。愕然とした。
けどなんとか質問をする。
「じゃあなんで、私が来たことをそんな一大事みたいに扱うんですか?」
この質問に答えたのは、さっきと同じでリリアンヌさんだった。
「多分何か勘違いしてると思うけど、この世界とは別に他にも世界があるって知っている人は、ほとんどいないのよ。だから一大事みたいに扱っているのは、私達みたいに別の世界があるってことを知っている人だけ。それを念頭に置いて聞いていてね」
「⋯⋯⋯⋯」
「って言ってもそんな難しい話じゃなくてね。ただ単に私のお母さんに、『もしあの女みたいに他の世界からやってきた人がいたら優しくしてあげな』って言われてただけなんだけどね」
私は、それだけ? という言葉しか出てこなかった。
だってあんなためにためたのに、親から言われただけ? それだけ?
それだけであんなにニクスと、リリアンヌさんは喜んでくれたの?
「なんか。ありがとうございます」
なんだかお礼を言ってしまった。
すると今まで黙っていた、ニクスが突然喋りだした。
「だからね。私もおばあちゃんみたいに、他の世界から来た人と結婚するって、この話を聞いた日からずっと願ってたんだ。だけどホントに会えるなんて思ってなかったから、びっくりしちゃって。すぐにお母さんに紹介しなきゃって急いで連れてきたんだ」
「え? なにそれ?」
突然の実質的な告白に、言葉が出ない。
「だから。ユリは私の運命の人だから結婚しよって言ってるの!」
待って整理しよう。
あそこでぶつかって、私が時計持ってるの見つけて、ニクスは私を運命の人だと思ってここまで連れてきたと。
道中無理に呼び捨てにさせたりしたのは、もう結婚するんだから呼び捨ては当たり前だよね? てきなことで、さっきの胸のは、単純に私の注目がニクスから、リリアンヌさんに移ったからヤキモチを焼いてたってこと?
え? なにそれ可愛くない? 可愛いけど、結婚までが早くない?
「待ってニクス。結婚はちゃんと段階を踏んでからするものだと思うな」
もちろんニクスと結婚するのが、嫌だとかではないんだけど、元々コミュニュケーション能力が低いのにいきなり結婚なんて言われたら、無理ってなるのはしょうがない気がする。
「えー。いいんじゃん今すぐ教会行こうよ!」
そう言いながらニクスは、だんだんと顔を近づけてくる。
なんとか私は、今すぐには無理ということを考えて、なるべく優しくニクスに言った。
「ニクス。そのーおばあちゃんと異世界人も、色々イチャイチャしてから結婚したわけでしょ?」
「うん」
「それならさ。まずは私達もね。結婚する前に色々しようよ、ね。」
苦肉の策でそんなことをを言ってみたが、ニクスはなんとか納得してくれたようで、良い返事をしてくれた。
「わかった。今すぐは結婚しない」
よしよーし。なんとかなった。
けどとニクスは続けた。
「それなら恋人なら良いでしょ?」
まぁ。恋人ならと私は軽く返事をした。
「うんそれならいいよ! これからもっと仲良くなろうね!」
私がそう言った後に、ニクスは私の耳元で囁いた。
「はい。私とユリは恋人ね。私以外に色目使ったら。わかってるよね」
そう言った後の、ニクスの表情は笑顔だった。
けれど道中で見た笑顔とは、真反対の笑顔だった。
「はい」
私はそう返事をするしかなかった。
だって怖いもん。
ニクス完全にヤンデレだもん。
絶対普通に私を殺すよ、怖い。怖すぎるよ。
普段はホント可愛くて、天使なのになんで、なんでヤンデレなの?
正に綺麗なバラには棘がある。だよ。
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