1-3 初めての異世界 三

 走っていったニクスは、腰元から短い刀? のような物を抜き人の首元を確実に落としていく。

 ザシュ、ザシュ、ザシュ、とこの音が三回聞こえた時には、今私の目の前に人はいなくなっていた。

 詳しく言うと人型のドラゴンとエルフ耳を生やした人間のみになっていた。

 その光景を見て私は、思わず倒れ込んでしまう。

 今すぐにでも帰りたい。人が死んだ人がその場から消えた。

 怖い。

 そんなことを考えていると、今まで路地の奥でうずくまっていたドラゴンが、私を横目に見ながら走り去っていた。

 すると路地の奥から聞きなれた声がだんだんと近づいてくる。


「おーいユリ大丈夫?」

 ニクスがだんだんと、近づいてくる。

 私はそんなニクスの肩に手をかけて、強めに問いかける。


「なんで。なんで人を、人間を殺しちゃったの?」

 私がこの時計を、つけていなかったら私は、ニクスに出会った瞬間死んでいたかもしれない。

 そう思うと今ニクスの肩に、手をついているのも怖くなってくる。

 するとニクスは、当たり前のように言い出した。


「多分ユリ勘違いしてるよ? あれは人間じゃなくて、魔物またはモンスター、呼び名はまぁいいとして、あいつらは昔から突然私達が住んでいる場所に現れては、私達を襲うんだよ。だから殺したそれだけ」

 魔物? モンスター? なんでそんなのがここにいるの? ここは現実でしょ? そもそもニクスはなんで短刀なんかを装備して?

 そんな私の考えは、ニクスの一言で消し飛んだ。


「もしかして、ユリがいた世界だと魔物、いないの?」

 そうだった。

 ここは異世界だった。

 一番忘れたらダメなことを忘れてしまっていた。

 異世界なら魔物もいるよね。

 今私自身、自分の表情がどんなのになっているか想像すらできないほどに、色々な感情が渦巻いていた。

 しかし長くは、考えなかった。

 私は自力でなんとか、正気に戻り心配そうに、私を見ていたニクスに一度声をかけて、質問を再開した。


「それで、さっきの人型のドラゴンは、何?」

 そもそも私のイメージのドラゴンが、物語によく登場する大きな翼体尻尾のドラゴンなので、もしかしたらこの世界ではあれが普通なのかもと心配はあった。

 しかし私の考えもあながち間違っていたわけでは、なかったようでニクスは色々と説明をしてくれる。


「さっきのドラゴンの子は、今は単純に人型の状態ってだけ。多分あの子もそのユリが想像するような姿にはなれると思うよ」

 まるでニクスは、私の先生だ。

 実際私は現在この世界のことを、ほとんど知らないので先生って言うのも、あながち間違いではないのかもしれないけど。


「もう大丈夫? 行ける? もっと説明したいことはあるけど一回私の家で休みながらのほうが、いいと思うから」

 ニクスは倒れ込んでいる私に、目線を合わせて笑顔で、そう言ってくれた。

 何この子天使?

 すると今までごちゃごちゃ考えていたことが、どこかに行ってしまい。

 途端に元気が出てきた。

 やっぱり元気の源は、笑顔だね。

 そんなことを考えながら、また歩きだした。


 その道中、今更ながら街の中を見渡してみると、色々武装した人間? の姿がちらほら見えた。

 気になった私は、ニクスの肩を叩いて質問してみる。

 本当に教師と生徒になった気分だった。


「ニクス。あの武器持ってる人達は、どういう人達なの?」

 するとニクスは、私の見ている方向に目をやり、あー。あれはと説明を始めた。


「あれは、多分今日は人間領の人達だから、騎士団の人達だね」

 気になる単語が、色々ありすぎて一つ一つ聞きたいぐらいだけど、私は黙ってニクスの話を聞く。


「騎士団は、まぁ簡単にいうとさっきの魔物から私達を守ってくれる人達だね」

 なるほどだから、警察のパトロールみたいに巡回しているのか。

 しかし疑問が、残ってしまったので私は、ニクスに聞く。


「でもさっきのドラゴンの子の時は、騎士団来てくれなかったよね?」

 この質問が、予測されていたかのように、ニクスは答え始めた。


「あれは、まぁ路地のホントに人気のない場所だったからね。あそこまでちゃんと見る騎士はほとんどいないよ」

 なんかホントに、私の世界の警察みたいだなー、なんて思いながらも私は一言ニクスにお礼を言った。

 魔物っていうのが、この世界の人達の敵というのはなんとなく理解できた。

 それでもあそこまで、人の姿をした魔物っていうのも珍しい気がする。

 だって魔物って言ったら、ゾンビとかさメカメカしいやつとかさ、飛んでたりとかそういうのじゃん? あれはぱっと見人にしか見えなかった。

 私の知識が、ないだけなのかもしれないけど。

 するとニクスは、突然立ち止まり喋りだした。


「ここが私の家」

 そう言ってニクスが、指をさしたのは、大きくも小さくもない普通の家。

 お城でも、大豪邸でもない。

 煙突がさしてあって、屋根は黒色、日本にあっても海外にあっても違和感がないそんな普通の家。

 するとニクスは、私に構わずに家のドアを開けて入っていってしまう


「ただいま〜」

 挨拶をしながら入っていくニクスを追いかけて、私も入っていく。


「お邪魔しまーす」

 一応そう言って入っていく。

 家の中は、日本とは違い靴を脱いだりして入るわけではないようで、靴を脱いだりする場所が、一切なかった。

 そのまま真っ直ぐ行くと、右側に上へ行くための階段そして、左側には部屋に入るためのドア。


「お母さん来て!」

 と私が、家の中で戸惑っているとニクスの声が、聞こえてくる。


「お母さん来て! 早く!」

 大はしゃぎのニクスが、私の元へ現れた。

 そしてニクスの後ろには、ニクスとは全く違う。

 ボンキュボンな女性の姿が、あった。

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