1-2 初めての異世界 二
「あいたたー」
と私がぶつかってしまった人は、そう言いながらゆっくりと体を起こす。
私も痛がりながらも、なんとか体を起こし全力で謝罪する。
「ごめんなさい!」
頭を下げる。
声に出して謝罪したのなんて、何年ぶりだろうか。
するとその人。
とても大人の女性とは、言えないものの子供でもない。
そんな大人と子供の中間ぐらいのその人は、私に笑顔で手を差し伸べてくれた。
「そんな真剣に謝らなくても、大丈夫だよ。こっちも悪かったしね」
私は、その人の手を取りながらも謝り続けた。
だって人とのコミュニケーションなんて、久しぶりだし、もう謝る以外できないよ。
さっきの運転手は、人じゃないから良かったけど。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
するとその人は、謝っている私の右手首を見て驚きを見せた。
「この時計⋯⋯もしかしてあなたは、別の世界からやってきたのですか?」
その時、その人の髪の毛の中から少しとんがった耳が、飛び出ているのに気がついた。
エルフ耳だった。
ここは異世界なのだと、この時改めて自覚した。
そして多少戸惑いながらも、エルフ耳の女性に返答をする。
「はい。多分そのこことは違う世界から、来たと思います」
その答えを聞いて、エルフ耳の女性は耳をひょこひょこと動かしていた。
嬉しいのだろうか? 犬が嬉しいと尻尾を動かすのと、同じ雰囲気を感じた。
するとその女性は、少しずつ私との距離を縮めていく。
「あの。もしよろしければお名前なんかを教えていただけると、嬉しいのですが」
その女性は、私に近づきつつ。名前を聞いてきた。
本当に興味津々のように、質問をしてくる。
しかし私は、戸惑ってしまった。
初の異世界(初じゃない人のほうがおかしいけど)そして久しぶりのコミュニケーション。
名前を言うということだけでも、私にはとても難しいのだ。
するとその女性は、何かに勘付いたのか、一旦咳払いをしてやり直しという風に喋りだした。
「ごめんなさい。名前を聞くときは先に名乗らないとですよね。では、改めまして。私はニクスという名前です。姓は⋯⋯今はないので、気にしないでください。それであなた様のお名前は?」
ニクスと名乗った女性の、姓は今は無いという言葉が気になりつつも、私は勇気を出して喋りだす。
まるで、世界中の人が私の動向を常に、監視しているそんな気分になりながら、名前を教える。
「四季 雪璃です」
私は、本名を名乗った。
本名以外教える名前なんてないので、当たり前なのだけど。
するとニクスさんは、私の名前を聞いて笑顔のまま。
とても私にはできないキラキラした笑顔で、名前を褒めてくれた。
「シキ ユリ。ユリかいい名前ですね!」
たとえお世辞だとしても、名前を褒められるのは気分がいい。
それにこんな綺麗な人に、最初から呼び捨てでしかも、下の名前で呼ばれるとなんだかキュンとしてしまう。
私が、そんな乙女心を抱いているとニクスさんは、私の腕を掴み引っ張っていく。
もちろん私の体ごと。
私はその出来事についていかずに、とっさに驚きを隠せないまま喋りだした。
「まってまって。ニクスさん一回止まって」
するとニクスさんは、軽い口調で返事をした。
「さんはいらないですよ。ニクスでいいですよ。ニクスで」
そこじゃなくて止まっての方に、耳を傾けて欲しかった。
いつもの私なら、それでも謙遜して呼び捨てにしたりはしないのだけど、今はとにかく一回止まって欲しかった。
「一回止まってニクス!」
結構強めの口調で、言ってしまったので申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
けどその甲斐あってかは、わからないけどなんとかニクスさんは止まってくれた。
「ありがとうございます。ニクスさん」
私がお礼を言うのも、変な感じですけどそれでも私は、言ってしまいます。
だって悪いのは引っ張られた私ですから。
するとニクスさんは私の顔を、睨みつけてきます。
「だから。さんはいらないですって。次さん付けしたらもう一回無理矢理引っ張っていきますからね」
さっき私は、謙遜して呼び捨てにはしないと言いましたが、それは撤回します。
脅されたら呼び捨てにします。
恐怖には勝てないです。
「わ、わかりました。ニクス」
するとニクスの表情は、睨み顔からキラキラした笑顔に戻りました。
私は、その笑顔を見てから質問をした。
「それで。ニクスなんで無理矢理私を引っ張って行ったんですか?」
当然の疑問を、ニクスにぶつける。
ニクスは、少し悩んでから私の質問に答えだした。
まるで何も考えずとりあえず、引っ張っていったようなそんな感じで。
「それはね。私の家に来て欲しいなって言う、ただそれだけなんだけど」
それなら、言ってくれればついて行ったのに。
普段の私ならそんな考えも口には、出さないのですけど、なんかニクス相手には喋れそうな気がした。
リアルでもいるじゃないですか(ここも異世界であるだけで現実なんですけど)あったその日に仲良くなれるなー。って人ニクスは正にそれでした。
だから私は、言う。
強めの口調で。
「それなら一言言ってくれればいいでしょ? なんで無理矢理引っ張っていくの?」
言い過ぎました。
距離感をミスりました。
これが人見知りゆえの弊害です。
思わずタメ口で喋っちゃってますし。
もうダメです。
ニクスとはここでさよならです。
「ごめん。勢いだけで行っちゃって」
私がそんなネガティブなことを、考えているとニクスは、素直に謝ってきた。
しかもタメ口で。
なんだかよくわからないけど、とりあえず私も謝っておく。
「ごめんなさい!」
「なんでユリが、謝るの? 私が悪いだけなのに」
ニクスは、微笑みながらそう言った。
本当に不思議そうに質問してきた。
けど私は、答えられないだって。
なんで謝ったのか私にもわからないから。
そうやって黙っている私に、ニクスはまたもや優しく声をかけてくれた。
「まぁいいやそんなことは。それで? 私の家来てくれるの?」
その質問に私は、悩む。
怪しい人? 怪しいエルフ? 怪しい人じゃなさそうだし、ついて行っても大丈夫そうではあるけど。
そういう悩み。
私は決めて答えを言います。
「うん」
さっきはあれだけ喋れたのに、もう一言しか出てこなくなった。
引きこもりしてるのに、コミュ力高い人は化け物だよ。
「了解! それじゃあ行こっか」
そう言って歩きだした瞬間。
ニクスは突然、左側にある人影がない路地のような場所に、目を向けた。
私もニクスが向いている方向を見てみると。
そこには、フードを被った人間? のような人が三人ともう一人。
頭からは角を生やしていて、背中からは、翼を生やしている。
そして背中よりももうちょっと下の位置には、尻尾をそれもとても太い尻尾を生やしている一人の少女がいた。
その少女を一言で言うなら。
人型のドラゴン。
それ以外に言葉は浮かばなかった。
さっきまで見ていたニクスが、突然その人間たちに走っていった。
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