異世界には自由に行けます

tada

1-1 初めての異世界 一

 私、四季しき 雪璃ゆりは男が怖い。

 特に何か事件があったとかそう言うわけでは、ないのだけれど私は男が怖い。

 生理的に無理とかそういう次元ではなく、言葉にできない何かが私には、あった。

 それは家族であっても同じだった。たとえ兄であっても父親であっても、私は怖い。

 テレビに出ている芸能人でさえも怖いのだから、私は全ての男の人が怖いと言っても過言ではないのでは、ないのだろうか。


「男なんて全員いなくなればいいのに」

 ある日私は、自分の部屋でそうぼそっと呟いた。

 すると突然私の部屋には、謎の光が輝きだした。

 体が勝手に目をつぶってしまう。そのぐらいに眩しい光だった。

 しかしその光もずっと光っているわけでは、ないらしく眩しかった光は、だんだんとその明るさが消えていった。


 光が無くなると私は、ゆっくりと目を開ける。

 目を開けた、私の眼前には大きなドアが立っていた。

 部屋の中にドアがあり、そのドアはドアのみで、そこに立っていた。

 ありえないありえない。私が一言呟いただけで、突然ドアが現れるなんて。そんなの。


「は、は、は、はは、はは、ははは」

 思わず笑いが出てしまう、だってそんなアニメ見たいなことが、現実で起こるなんてそんなの笑うしかないじゃない。

 しかし私は気になってしまった。

 このドアを開けたら何があるのか、その先にもしかしたら私が、進むべき道があるのかもしれない。

 そう思うともうドアノブを捻る手は、止まらなかった。

 私はガチャっとドアを開けた。(実際は無音だった)


 私がドアを開き、入っていった場所は真っ白な空間だった。

 白すぎて距離の感覚がわからない、少なくとも私の部屋よりは、広いそんな感覚だった。


「なに? ここ」

 最初は微かな希望で入ってきたこの空間だったが、やはり少し怖くなってくる。

 ここはどこなのか、私はちゃんと元の場所に戻れるのか、そんなことを考えながら私はとりあえず歩きだした。

 不幸なことに、道は一本道ではなく三百六十度全ての方向に、行けるようになっていたので、ますます元の場所に戻れるのか心配になりながらも、少しの間歩くとバスのような物が、姿を現した。

 今すぐに、ここの空間の説明が欲しかった私は、怖がりながらも小走りでバスに近づいていく。

 そんなバスは、錆び付いていてどこか古めかしいものが漂ってきていた。

 そんなバスも、私がバスの元にたどり着くやいなや、人が来たのを感づいたかのように扉が開いていく。

 扉が開いて、私の目に真っ先に飛び込んだのは、バスの運転手だった。

 運転手は、とても人とは言えない、しかし何かに例えることは難しいそんな姿をしていた。

 まさしく性別不詳という言葉が、似合っていた。似合いすぎていた。


「こんにちはお嬢ちゃん」

 そう挨拶してきたのは、運転席にどっしりと腰をおろし、何か端末のような物をいじっている、バスの運転手だった。

 私は多少怯えながらも、運転手に挨拶を返す。


「こんにちは」

 私の声は震えていた。

 なぜなら運転手の表情は、無表情のままで挨拶をしている時でも口は、動いていなかった。

 素直にその運転手が私は怖かった。

 絶対に世界のどこにも存在してはいけないものが、目の前にいると人間は、こうも恐怖を感じてしまうものだと私は、初めて気づいた。

 しかし運転手は私のそんな感情を、考えようともせず私に質問をしてくる。


「お嬢ちゃん、名前は?」

 そんな普通の質問されるとは、思わず私は戸惑ってしまう。


「え、、あ、その」

「大丈夫? 名前わかるかい?」

 相変わらず無表情の運転手ではあるが、その問いかけに、少し優しさを感じるのは気のせいではない気がする。

 私は急いで名前を教えるために喋り始める。


「えっと、名前は、四季 雪璃って言います」

「シキユリ? シキユリね。いい名前だね」

 運転手はちっともそんなことを思っていないようにそう言うと、すぐさま次の質問をし始めた。


「二つ目の質問ね、ユリ、君はどこからここに来たの?」

 私は、その質問にさっきとは違う理由での戸惑いをした。

 その理由とは、なんと答えればいいのかが、わからないのだ。

 もちろん自分の家の住所などは答えることができるが、多分この運転手が聞きたいのはそういうことではないとは、思うのだけれど。

 とりあえず私は、黙っているのも悪いので適当に答えてみる。


「自分の部屋?」

 これが正解とは、思っていなかったけどやっぱり間違いだったようで、運転手は一言追加した。


「もっと大きな括りで」

「日本?」

 もう一声と言わんばかりに、一言追加する。


「もっともっと大きな括りで」

「地球?」

 私はこれ以上は言えないほどの大きな括りを言ってみたが、どうやら正解だったようで、運転手は端末をいじりだした。

 運転手は何かぶつぶつ言いながら、端末をいじり準備が終わったのか、その端末を私に渡そうとしてきた。


「これを見たらいいの?」

 私がそう聞くと運転手は、無言で私を見続けていたので、私はバスの階段を一段上がり端末を受け取った。

 端末には、ニューヨークや東京パリなどといった、色々な都市や観光地の写真が映っていた。


「そこが君の住んでいる世界?」

 運転手は端末を見て悩んでいる私に対して、そう質問をしてきた。

 まるで運転手にも良心があるような、そんな感じで。


「まぁはいそうですね」

「そうか、じゃあ君は人間界に住んでいるのか」

 運転手が何を言っているのか私には、わからなかった。人間界って何? 文字的には私達人間のことを指しているのだろうけど。

 すると困っている私を見てなのかはわからないけれど、何かを思い出したように運転手は喋りだした。


「あーそうか君ここのこと何もわからないのか」

「はい、ごめんなさい」

 元々このバスには、情報を求めて近づいたので、このまま上手くいけば情報を教えてもらえそうだったので、私は下手に出てみる。

 すると私の作戦は成功だったようで、運転手は説明を始めてくれた。


「まずこの白い空間だけど、ここは簡単に言うと色々な世界との中間地点だと思ってくれたらいいよ」

「中間地点?」

「そうここから色々な世界、君のいる国の言葉だと、確か『異世界』って言ったかな」

 この運転手が言っていることは、私達とは異なる世界。色々な異世界に繋げてくれるバス停ってところだろうか? この白い空間は。


「それじゃあ、運転手さんは神様なの?」

 私の人間を異世界に連れていってくれる人と言えば、神様だろうという固定概念で質問をしてしまった。(神様を人と表現するのは、失礼なのだろうけど今回は許してほしい)

 しかし私の固定概念も、今回はいい方向に向かったようで、今まで無表情の無感情と言えた運転手が笑ったのだ。


「ふっ自分が神様? そんなことを言ったら自分は消されてしまう」

「それじゃあ運転手さんはなんなの?」

「自分はなんなのか? バスの運転手それ以外は何もない。もちろん名前も」

 やはり運転手は、無感情にそう言うのだ。運転手でしかいられず、名前も何もないそんな状態で無感情で、いられる。

 そんな運転手が私は怖い。怖いけれど初めて運転手を見た時の怖さとは、違うような気がした。


「それじゃあ本題に入ろう」

「本題?」

 私はそう聞き返す。


「そう君、シキユリはどの世界に行きたいのか、それを聞かないことには連れていってあげられないからね」

 私にはどうしようもない、運転手さんのことは一旦置いておいて、ほとんど信じてはいないけれど一応提案してみる。


「それじゃあ、女しかいない世界に連れていってください」

 それを聞いて運転手は、また何かぶつぶつと言いながら端末をいじりだした。

 私はそんな世界あるわけがない。そう思って提案をした。

 だって女しかいなかったら、新しい生命が生まれないことになってしまう。

 そうすれば自然と生命は朽ちていくただそれだけの存在になってしまうはず。

 しかしそんな私の予想を裏切るように、運転手は喋りだした。


「あったあった。君と同じ言語で女しかいない世界。名前はね『リリー』だね」

「リリー」

 私はその世界の名前を口ずさむ、まるで覚えたての言葉を喋る赤ちゃんのように、楽しげに口ずさむ。


「それで? どうする行くかい?」

 私はその問いに今日一の速さで、答える。


「行く!」

 と。

 しかし返事をした後に気づいてしまった。私には今お金がない。もちろん部屋の中には持ち金はある、けれど突然ドアが現れてとっさにドアの中に来てしまったので、私は手ぶらだった。

 そもそも私達が使う貨幣が使えるのかも、怪しいところではあるけれど。


「でも私お金が」

 私は運転手さんに、申し訳なさそうにそう言う。

 しかし運転手さんの返答は、私にとっては好都合のものだった。


「大丈夫、そもそも君達が普段使ってる貨幣なんて、自分にしてみたらなんの意味もないからね。それにお金なら君達の世界から貰ってるから」

「世界?」

「大丈夫大丈夫今は気にしないでいいよ。君が何回もここに来るようなら、その内教えてあげるよ」

 運転手さんはそう言うと私を急かすように、喋るのを続けた。


「もうそろそろ出発するよ。早くバスに乗って」

 私は急いでバスの階段を登っていく(三段ほどしかない小さな階段だけど)すると運転手さんは、階段を登りきった私に何かを渡してくる。

 運転手さんの手に握られていたのは、時計と切符? のような物だった。


「あのーこれは?」

 私はその切符と時計を、運転手さんから受け取りながら問いかけた。

 時計には小さな二つの時計が埋め込まれていた。

 切符には、人間界とリリーという世界の名前が書かれいた。

 すると運転手さんは、優しく丁寧に教えてくれた。案外いい人なのかもと思わなくもなかった。(人ではないけれど)


「この小さな時計が二つ並んでるのが、今から君がいく世界の時間と、君が来た世界の時間を表示してくれる時計で、この切符は君が元の世界に帰りたいと思った時に、空めがけてこの切符をかざしてくれれば、君はこのバスの中に戻ってこれる。その為の切符」

 あ、それと──と運転手さんは喋りを続けた。


「一応言っておくとね。全部の世界共通でのルールでね、別の世界。異世界に七日間、一週間以上滞在すると──元の世界から存在を消されるから気をつけてね」

 絶対一応で付け加える内容ではない気もする。

 私は一応確認をしておく。


「もう絶対説明しとかないと行けないことは、ないですよね?」

 すると運転手さんは、何か悩むような素振りを見せたが、すぐに何かを思い出したのか、ちょっと急ぎ目に喋りだした。


「あったあった重要なこと。君が別の世界で死ぬのは、君が住んでいる世界で死ぬことと同義だから。」

「え? それってつまり」

「そう君は、別の世界で死んだからってゲームみたいに、元の世界に生き返るなんてことは絶対にないってこと」

 そこで喋りは途切れるのかと思ったが、運転手は最後に一つ付け加えた。


「それでも君はいくかい?」

「もちろん!」

「それじゃあ席座って」

 私は言われるがまま、バスの席に腰を下ろした。

 私はこの時は、まだ異世界に行けるなんて信じきってはいなかった。

 バスが出発して目的地に着くと、あの真っ暗な部屋で目がさめるのだと、またあの引きこもりの生活に戻るのだと、どうせこれは夢なのだとそう思っていた。

 次の瞬間までは。


 数秒も経っていない。


 気づいた時には、私は立っていた。


 目を開けるとそこは、ファンタジーRPGのような景色が広がっていた。

 私は思わず、何も考えずに走りだした。

 私が見たことない景色、絶対に来れないと思っていた場所で、私は走っている。

 人生でここまでの興奮を覚えたのは、これが初めてだった。


 私は、走っていた。

 ただ走っていた。

 私は人にぶつかってしまった。

 私のぶつかった相手はとても綺麗な女の人だった。

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