episode 18
「話したくなかったら、話さなくていいから。けど、一応訊いておかないとね」
「俺の家族は……
もちろん嘘だ。
だが、エルの発言の手前、辻褄を合わせておかないといけない。
好都合だしな。
少なくとも、俺の憎しみの矛先をごまかすことができる。
しかし、なんで情報が交錯しているのだろう。
意図的なものを感じる。
「……それは辛かったね」
「ああ。家族だけじゃない。知り合いも、友達も、みんな殺された」
「相手は一人?」
うぐっ。
早速ボロが出そうな質問だ。
一人と答えて、後々辻褄が合わなくなるのだけは勘弁したい。
「……分からない」
「分からない? ……そう」
レンラは顎に指をあて、考える。
そして、おもむろに椅子を立った。
ベッドに乗っかり、俺を背後から抱きしめる。
ぎゅっと。
柔らかく。
「!???」
俺はびっくりした。
顔が近い。
息があたる。
いや、それ以上に色んなものがあたっている。
無論、女性に抱きしめられる経験なんてしたことない。
本能的に緊張する。
ダメだダメだ。
煩悩に負けるな。
俺にはのぼせてる暇なんかないんだ。
早く強くならなきゃ……。
「大丈夫。もう、大丈夫だから……」
レンラは甘く囁く。
耳がむずがゆい。
「……全然大丈夫なんかじゃない。俺の家族を殺したのが一人でも複数でも。どっちにしろ、絶対に復讐してやる」
俺ははっきりと意志を伝えた。
嘘を含んでいたが、大まかな目標は変わらない。
とにかく、強くなる。
「
ああ、不毛さ。
そんなこと、分かってる。
コロシアムみたいにお金が貰えるわけでもないしな。
「それでも、やらないといけない。このままじゃ悔しくて、死のうにも死にきれないだろ?」
「……ダン。君は私のペットだよね?」
「ああ」
「じゃあ、危険なことはやめて。これは命令よ」
「それは……」
俺はうろたえる。
この命令を下手に受け入れてしまうと、
体を鍛えることすら難しくなりそうだ。
さて、どうしたものか。
「……分かったよ。危険な真似はしない。
だけど、家族を殺したヤツが、いつ俺を殺しにくるか分からないからさ。
自分で自分の身を守るためにも、強くならないと」
「絶対だよ? 約束だからね?」
俺は少しイラついた。
レンラ。
お前は俺の一体なんなんだ。
いや、ご主人ではあるんだけども。
出会ってから一日も経ってないぞ。
図々しすぎやしないか。
「分かった分かった。だからそろそろ離してくれ」
「……そう」
レンラは、さすがに離れた。
傷を癒して、その上客人としてもてなしてくれるってんだから、これ以上うまい話はない。
何が裏があるんじゃないか。
そう疑いたくなるくらいだ。
逃げられるなら、今すぐにでも逃げ出したい。
だが、今の俺に選択の余地はない。
不便だな、足がないというのは。
魔法でトリップできるとはいえ、
随分と行動の選択肢が制限されてしまう。
「そういえば……どうやって俺の怪我を治したんだ? 」
俺はふと疑問に思ったことを口にする。
あんな大怪我、そうやすやすと治せるものではない。
普通なら、致命傷だ。
「これだ。
クローノは指輪を見せてきた。
緑色に光る、大粒の宝石がはめこまれている。
「……なにこれ?」
「神器だ。
治癒の能力。
便利そうな神器だな。
「それで俺の足の血を止めたんだ」
「そういうことだ。だが、足を再生させるには力不足」
クローノはうつむく。
「わたくしは魔導師でもなんでもない。
教養として幾らかの知識はあるが、ただそれだけ。
おそらく、この神器に半分も認められていないだろう」
「認める?」
認めるってなんだ。
まるで神器に自我があるみたいな話し方じゃないか。
「もしかして、ダン。神器のこと知らないの?」
「ファンタジーみたいな能力を行使できる武器だろ?」
「それはそうなんだけどね。神器には色々と制約があるの」
「へぇ」
レンラは、引き出しの中から針を取り出した。
「見ててね」
自分の指に、つぷりと針を突き刺す。
その指から、一筋の血が流れた。
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