episode 15
「ーー……ーー。ーーねぇ! 君、大丈夫!?」
ーーなんだ?
鈴のような声音。
心地がいい。
ずっと、聞いていたくなるような声だ。
俺は目を覚ました。
もうずっと、眠ったままだった気がする。
それくらい、頭がぼうっとしていた。
「あ! 起きた! なんとか血は止めたけど……ごめん。
足は再生できないみたい」
どこかの大きな木の下。
女の子が俺のことを覗いていた。
美しい女の子だ。
肌は白磁のように白く、その髪は漆黒をたたえている。
黒い髪ーー。
そんなの見たことがなかった。
異国の人なのだろうか。
「お嬢様。なぜ
女の子の隣には、青い髪の女性。
この人の髪は、女の子と対称的だった。
カラフルな髪色。
ファジル人の典型だ。
……ファジル人?
そう。ファジル人。
俺の家族を殺した、ファジル人。
俺の中で、何かがむくむくと膨れ上がった。
憎悪。
今まで生きてきて、これほど強い憎しみに襲われたのは初めてだ。
こいつらさえいなければ。
俺の家族は死なずにすんだかもしれない。
こいつらさえいなければーー。
「こんな大ケガしてるのに、助けない理由がないでしょ?」
「……お優しいですね。お嬢様は」
生い茂る草の上に、無数の血痕。
俺の足は綺麗に切断されていた。
おそらく、血を止める段階で切られたのだろう。
粉々にされたのだから、無理もない。
「ねぇ。君、名前なんていうの?」
黒髪の女の子が尋ねてくる。
「……ダン」
「苗字は?」
「……そんなの、ないよ」
女の子は、目をパチクリとさせた。
「お嬢様。彼はおそらく、
「そっか。じゃあ、よろしくね。ダン」
「……」
俺は答えなかった。
どう答えればいいのか、分からなかったからだ。
俺はこれからどうなる?
こいつらは、俺をどうするつもりなんだ?
「はは。無愛想だねぇ。何があったのか分からないけど、とりあえず助かってよかった」
「……名前は?」
俺は二人を見渡す。
「……ああ。レンラ。ディカロアス=レンラよ」
「……
青髪の女性は、明らかに嫌そうな顔をする。
さすがファジル人。
「ええ。これから一緒に住むんだからね」
レンラは、平然と言ってのけた。
は?
住む?
ファジル人と?
冗談じゃない。
「そうですか。……わたくしはクローノ。よろしく、
クローノは、俺の名前を呼ぶ気はないらしい。
くそったれが。
いつか殺してやる。
「ね。これは私の直感なんだけど。君、行くあてないでしょ。一緒に住まない?」
「……」
俺は黙って、首を縦に振った。
両足がない。
この状況で、外に放り出されるのは死を意味する。
ファジル人と一緒に住むのは心外だったが、
ここは素直に従っといたほうがいい。
それに、魔法の副作用があった。
頭痛はするし、体が思うように動かない。
「よし、決まり。ダン。君を客人としてもてなしましょう」
レンラはにこっと笑った。
「……でも、どうせなら……。条件をつけてもいい?」
「はい」
「私の
「はい?」
今、なんて?
「あの……
「うん!」
要は奴隷ってことだろうか。
「お嬢様!」
クローノは目を見開いた。
愕然とした表情だ。
「いけません。そんなにペットが欲しければ奴隷市場に……」
クローノはもっともなことを言った。
「ちっがああーーう!! 私は!! この子が!! いいの!!」
「!!!!???」
「こんな!! 可愛い!! ショタ!! ……ハッ!!」
レンラはこほんと咳をする。
どうやら、我に返ったみたいだ。
「つ……つい勢いで………」
レンラは、がっくりと肩を落とす。
本気で落ち込んでいるな。
「……はあ」
クローノはやれやれ、とため息をついた。
俺は拍子抜けしそうだった。
ファジル人を殺す。
その決意が一瞬だが、薄らいだ。
ダメだ。
俺はこいつらには迎合しない。
……そうだ。
今だけ、迎合したフリをしよう。
俺は、赤いドラゴンを思い出す。
まったく、歯が立たなかった。
それくらい、歴然とした力の差があった
今のままじゃ、アレに勝つことはできない。
俺は絶対に力をつける。
ファジル人に復讐するための力を。
「どう? なってくれる?」
「はい」
断る理由もなかった。
奴隷だろうがペットだろうが、この際なんでもいい。
「そう!」
レンラは指を合わせて、喜ぶ。
無邪気だ。
まるで、曇りがない。
レンラは年上に見えたが、
今まで随分と甘やかされてきたように思える。
どこか幼い。
「あの、ひとつ聞いていいですか」
「なに?」
「どうしていきなりペットなんか……。どこの馬の骨かも分からない俺を……」
俺にとって、あまりにも好都合すぎる話だ。
見ず知らずの土地に飛ばされ、
普通なら、のたれ死んでもおかしくない。
それがどうだ。
ペット。
その待遇の良し悪しは分からないが、
この感じからすると、少なくとも衣食住の心配はしなくてもすみそうだ。
しかして、見定めなければならない。
レンラの本心を。
「決まってるじゃない。『欲しいな』って思ったからよ」
「いきなり?」
「うん」
「俺を?」
「君を」
分からない。
話が早すぎる。
もしかして、レンラ。
頭のネジが外れているのでは?
ーーギイイイイ。
刹那、風切り音がした。
俺はとっさに身構える。
「どけっ!! お嬢!!」
怒声が、空から聞こえた。
瞬く間に、女の子が降ってくる。
大きなツインテールを結わえた、黄色の髪をした女の子だ。
背は俺よりも小さく見えた。
見るからに非力そうだ。
だが、その女の子は自分の体重の何倍もあろうかという大剣を、軽々と振るい、一瞬で俺の喉元に突きつけた。
「
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