episode 13【※グロ描写あり】
母も涙を流す。
口元は笑っていたが、それが余計に俺の胸を痛めた。
「集中……。集中しろ……」
俺はジンとランの手をかたく握りしめ、
改めて遠くをイメージする。
失敗は許されない。
今度こそっ……!
ーーは?
母の胴体が、一瞬にして二つに裂ける。
背骨や、内臓が散らばった。
ぐちゃりと、母の体は容赦なく踏みつけられる。
確実に殺すとでも言わんばかりに。
それはもう丁寧に踏みつけられた。
理解できない。
理解が追いつかない。
ドラゴンが、そこにいた。
赤いドラゴンだ。
「ごめん……なさい。ごめん……なさい」
ドラゴンの側に、おっさんが現れた。
赤色の髪をした、典型的なファジル人のおっさんだ。
首元には妖しく光る石。
他の魔導師より、一段と高そうな服を着ている。
そのおっさんは、ブツブツと謝罪の言葉をつぶやいていた。
「これは王の命令なんだ……。だから……ごめんなさい」
おっさんは虚ろな目をしている。
だが、一方でその目は危険なものを帯びていた。
おっさんが手を払ったかと思うと、ジンとランの体はバラバラになった。
肉塊。
それはもう、肉塊だった。
気づいた時にはすでに、どちらがどちらなのか区別がつかなくなっていた。
温かい血が、俺の全身に降りかかる。
鮮血の匂いが鼻をつく。
ビクビクとうごめく内臓の破片が、嫌でも脳裏に焼きついた。
俺は、二人の手だけを握っている状態になった。
その手の先に、体はない。
文字通り、手だけ。
「う……あっ……」
俺は怖くなって、手を落とした。
ビチャっと、血だまりに落ちる音がする。
見たくなかった。
脳が拒絶した。
真赤に染まった己の手を、視点の定まらない目で見つめる。
俺は膝から崩れ落ち、へたりと座り込んだ。
もう何も、考えられない。
考えたくない。
「……魔法が使える
「はい、タルハン卿」
肩から血を流す魔導師が、答えた。
おっさんは、たくわえた髭を触り、俺を観察する。
そして、口を開いた。
「君が全て悪いんだ」
「……え」
「全部君のせいなんだ。君が異端であるばかりに。君のせいで、ここに住む
おっさんはブツブツと、つぶやき続ける。
「俺だって好きで殺すわけじゃないさ。だけど、しょうがないだろう? 命令なんだ。俺をこんな目に合わせやがって。お前はとびきり苦しんで死ね」
まともな精神状態だとは思えなかった。
言っていることが、支離滅裂だ。
俺は得体の知れない恐怖に襲われた。
おっさんは再び、手を払う。
呼応するかのようにドラゴンの手が伸び、
俺の足をいともたやすく砕いた。
「がっ……!! ああああああッ!!!」
激痛。
それは痛みというより、もはや熱さに近かった。
ビリビリと脳みそに危険信号が走り、俺の意識は飛びかける。
俺は、泣いた。
悲しいから泣いた、というより、
ぐちゃぐちゃになった感情に耐え切れず、泣いた。
夢だ。
これは悪夢に違いない。
目が覚めたら、いつものように家族で食卓を囲むんだ。
いつものように、水を汲んで、いつものように、魚を獲って、いつものように喧嘩してーー。
だって、そうだろう?
こんなことありえないじゃないか。
こんなことーー。
『ーー本当に夢だと思う?』
どこからか、女の子の声がした。
幻聴だ。
死ぬ間際ってのは、幻聴がするんだな。
ははは。
夢だろ、こんなの。
『ーー残念ながら、夢じゃないわ。ね、ファジル人が憎い?』
ああ、憎いさ。
何度殺しても、殺したりないだろうな。
家族との思い出が、フラッシュバックする。
楽しい思い出、悲しい思い出。
たくさんあったけど、どれも良い思い出だ。
家族だけじゃない。
チッキ、ゴーシャ。
他にも色んな人と出会って、色んな時間を過ごした。
ーーそれをファジル人は踏みにじりやがった。
許さない。
絶対。
絶対。
『いいよ。連れてってあげる。あなたには、その資格があるのだから』
連れていくって、どこに?
『……さあ、どこだろうね』
まあ、いいさ。
このままじゃ、どうせ死ぬんだ。
好きにしろ。
『ふふっ。可哀想ーー』
俺の体は、とてつもない魔力に包まれた。
全身が裂けそうだった。
とにかく、熱い。
炎の中にいるみたいだ。
巨大な魔方陣が展開する。
今までとは、比較にならない大きさ。
数十倍はあるだろう。
雷鳴がとどろき、爆風があたりを吹き飛ばす。
俺の意識は、ここで暗転したーー。
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