12

 全学生による本日の講義が終了した。窓からみなみ槌納いぬいが校舎を出て行くのが見える。

 百合川ゆりかわは頬杖をつき、講義室からその姿を眺めていた。

 既に日は西に傾き夕日で教室は赤く照らされている。

 二人は段々と遠ざかり、夕闇の中に消えていく。

 姿が消えていくと同時に、百合川の鼓動が少しばかり早くなり、胸を締め付けられるような感覚が襲う。なんだかやるせない気持ちで、ぼんやりと見届けていると、

「おーい、りんごー。あそぼーよ」

 声をかけられているが、ぼーっとしている百合川は気づかない。

「りんりん? どーした」

「なんか今日の午後からおかしくなーい?」

 数人の女友達に声をかけられ、不意に我に返ると、やっとのことで反応する。

「……あ、ごめん、ぼーっとしてた」

「具合でも悪いの?」

「いや……そーゆーわけでもないんだけど……」

「……男?」

 予想外のワードが友人から出てきたことに、驚きを隠せない。

「な――」

「確かにりんりん、誰かのこと目で追ってた気がするー」

「それー、今まで男っ気無かったりんごなら、男で悩みそうだよねー」

「何かあったなら、うちらが相談に乗るよ!」

 友人達が矢継ぎ早に投げかける言葉に何か答えようとするも、全く答えることが出来ない。

「タイミング的に、噂の転入生とか?」

「あ、それわかるー」

「二人とも見たよー。まあ割とありかなー」

「えー⁈ 噂じゃ、片方ヤバいやつみたいじゃない?」

「うわさじゃーなんともねー、アタシは見てからかなー……」

 百合川は話に参加せず、友人達が盛り上がっているのを聞くともなく聞いていた。

「りんごはもう見たんだっけ?」

 急に話を振られ、また全員が百合川に注目を浴びせる。

「んー、まあ、昼にちょっとねー」

「んで、どだったん?」

「んまー、うち的にはなしではないかな……」

 すると、周りが「キャー」と黄色い声をあげる。

「りんりん、がそんなこと言うんならすごいかもねー」

「すっごく気になってきた、今度見にいこっかなー」

 またもや、百合川を他所に盛り上がりを見せる友人達。

 百合川は彼女らの会話には入らずに、自分の携帯端末に目を移した。

 そこには彼女が待つモノは表示されてはいなかった。

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