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「おいおい! ふざけるんじゃないぞ!」

「誰がそんなの認めたっていうんだ⁈」

「そもそも、なんでこんな時期に転校生?」

「まあ、あの会長の事だから面白半分でやってるんじゃね?」

「この団体戦闘チームコンバットを控えた時期に会長も、どこ産かもわからないバカ二人に構ってる暇はないってのにな!」

「というか、何を根拠に乗っ取るなんて言うのかしら?」

「転校初日にクラス丸ごと乗っ取るなんて、そんな実力でもあるのか?」

「もしかすると、そうなんじゃないか? みろよ、二人の自信満々な顔を」

クラスの面々の怒号や、疑問、推察によりミーティングルームはごった返している。

しかし、クラスの学生の目線は、みなみ納槌いぬいに集約している。

二人は、好奇や怒りそして侮蔑を含んだ視線を受け、内心むずがゆく感じながらも、陽は涼しい顔、槌納はニヤニヤと笑顔を崩さず聞き流している。

「転校生には多いんだよね」

クラスを代表し、嘲笑の目線を向けた伏が言い捨てるように言った。

「検査の結果で自分がそれなりの神に認められた人間の転生体ってことで、天狗になる困った馬鹿が」

「まあ俺らは、壁は超えるというより壊すってのがポリシーなんで、バカとみられがちだな。だが、身の程は知っているつもりだ」

陽はさらりと伏の侮蔑を流す。

「ほぉ。どんな神の加護がついているのかな?」

「両方とも【神の信託を受けしものエムフィスティスニ】だが?」

どっとクラス内で笑いが起こる。だが、二人は表情を変化させず、嘲笑に取り合わなかった。

その一方、伏は驚きで眼鏡をずり落とした。眼鏡を、クイッ、と元の位置に戻すと、

「呆れ果ててしまったよ。キングオブバカと言っていいほどだな。いや、学院に因んでゴットオブバカとでも言えばいいのか? 前世記憶メモリーすら解放できてない。つまり、固有能力ゼロの状態でクラス一つ率いるだと? 呆れて妙な例えしかでてこない――」

言葉を止める。

二人の雰囲気が、あまりにも余裕をもっていたからだろう。

「どうした? もっと馬鹿にしてもいいんだぞ? 実際今実力を比べたものなら、此処の連中の半分にも勝てないだろうな……。だがな、このクラスの奴よりマシな所はある」

伏は無言で二人を見つめる。

陽はそれを質問と受け取り、応える。

「俺たちは、最初から勝負を諦めて、勝つ可能性を見出す努力を怠ったことはない」

雑音が消え失せた。

伏が周囲を確認すると、殆どの学生が、心当たりのあるかのように伏目がちにしている。

『Ω』のクラスの学生たちは、団体戦闘チームコンバットを始めとする数多の敗北の為、勝利の二文字が見えていない。自信を根こそぎと落としているのだ。

そう――学院の裏では勝負にすら向き合えない敗北者なんて言われるほどだ。

「ふっ、覚悟だけは相当なものだな。それとも、唯の命知らずかな?」

「寧ろ俺らは万全を期すタイプだよ」

陽のサラっとした返答に、伏は興味を持ったようで、フン、と鼻を鳴らす。

「そもそもなんだがな、悪いが君たち二人の愚行に付き合う者なんかいないんだよ」

伏はこの話を終わらせるかのように、言い捨てる。

ここで、槌納が得意げな顔で、

「それこそ残念なんだけど、アンタたちには無理でも聞いてもら……」

ダン!と机を叩き立ち上がる影がある。

「さっきから聞いていれば! 貴方達は何なんですか⁈ 私たちの貴重な時間を無駄にして!学術発表コンペティションに向けて研究している人もいるんですよ⁈」

ちらりと、音のする方向を見ると、サラサラとした長くキメ細かい黒髪を持ち、ストッキングが似合う清楚系の少女が、顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。

「それに……貴方のような……その、へ……変態なんかの下につくなんて、あり得ないんですよ!」

槌納は、ポケー、と口を開く。そして、追憶する。全力で脳内をフル回転させる。

そして、唯一つの結論に辿り着き言葉にする。

「あ! あの時はどうも‼ いやはや、こんなに早く再会できるなんて思ってもいなかったよ! もうこれは運命か?いや、そうに違いない。ちゃんと俺の脳内にしっかり記憶してるよ! 君の素晴らしいパン――うあおっと⁈」

突如飛来した凶器――ペンを避けた。途中で槌納の言動が遮られる。

少女は赤らめた表情を作り、

「……それ以上口にしたら、全力で燃やしますよ⁈ あー、もうこの変態! 変態! 変態!こんな人初めて見ましたよ! 塵になって消えてほしいくらい!」

全力で槌納に罵声を浴びせる。

だが、少女は思い出したようにハッとすると、

「貴方とこんな生産性のない会話をしている場合じゃないんでした。私の言いたいことは、何処の馬の骨かも分からない人に従うつもりもないし、それに、貴方達の言うことは聞く意味もないって事ですよ?」

「……それなんだがな」

槌納は懐からいかにも高級な羊皮紙を取り出し、

「――会長からは、俺らの起こす行動はすべて容認するとの許可は取っているんだ」

クラスがざわつく。

慌てて伏が確認をしに来ると、槌納の手から羊皮紙を受け取り、しげしげと眺める。すると、本物の許可証と判断したようで、

「……何が目的だ?」

「なあに、無条件でクラスを乗っ取れるなんて思ってもいないぞ?」

反応に満足したのか、陽が得意げに反応する。

「俺らの要求はあくまでもクラスを賭けた決闘。それのみだ」

「……会長の了承を得ているとなれば断るわけにもいかんな」

伏は要求に納得し、

「だが知っての通り、あまり時間もない。その辺は考えているのか?」

「もちろんだ」

陽が間髪入れずに言う。

思わず、ほう、と感心を表す伏。続けて陽は

「このクラスで代表を四人ほど選出してもらいたい。そして、それぞれ別のルールで俺ら二人が勝負させてもらう。ルールは勿論互いの了承があればいくらでも追加できるって感じでいいか?」

「――いいだろう、その代表なんだが……」

「俺が行くぜぃ!」

「私が行きましょう」

先ほどの少女と共に、ツンツンとした茶髪、そしてグラサンをかけたいかにもやんちゃしてそうな男が自ら名乗り出る。二人は、同時に立ち上がったことに驚き、一瞬目を合わせ、少女が先に言う。

「もちろん、出させていただきます! あの変態ゴミムシは一度痛い目にあわせて公正させなければいけませんもの。――自己紹介が遅れました。決闘に則った簡単な自己紹介をさせて頂きます。私はヤン紅玉ホンユイ阿加流比売神あかるひめのかみの加護を受けた【神の信託を受けしものエムフィスティスニ】です。ゴミらしく灰にして差し上げますよ」

「こんな遊びがいがある奴らと対峙できるのは久々だぜぃ! 俺のスーパー鑑識眼によると、覚悟以外も見えるぜよ。下層でけっこう努力していたんじゃないかにゃ。俺が出ねぇと始まらんぞい! ナイオル・ムーアだ。クー・フーリンの加護を受けた【神の信託を受けしものエムフィスティスニ】だ。熱いバトル待ってるぜぃ」

続けてお調子者の男――ナイオルが名を名乗る。

伏は名乗り出た二人を見つめ、

「君たちなら代表として申し分ないな。前世記憶メモリーも十分に開放済みだし、何よりも『Ω』を代表する実力者だ。このクラスに反対するものはいないだろう」

「早速二人も決まったようだな。これなら、残りもすぐ決まりそうだな」

陽は事が早急に進むことに安堵すると、伏に残りの決定をほのめかす。

「他に立候補が居ないようなら、クラスリーダーとして僕が出よう。伏鳳飛ふせほたかだ。もう知っていると思うが、このクラスでリーダーをやっている。【神の信託を受けしものエムフィスティスニ】だ。諸葛亮の加護を受けている。以後お見知りおきを」

とんとん拍子でメンバーが決まる。その上、彼らは陽と槌納が事前に話を聞いた事がある学生だ。勝ちに来ていることがひしひしと伝わる。

「最後の一人なんだが、僕が推薦していいか?」

「もちろん、俺らに対戦相手を決める権利はない」

陽は伏の提案をあっさり了承する。

「では、お言葉に甘えて……スーラジ、君が出てはくれないだろうか?」

クラス中の視線が一斉に窓際の席に集約する。

この騒動に興味が無いのか、スーラジという男は会長が来てからというものの腕組みをしてじっと目を伏せている。

スーラジは、すー、と顔を伏の方に向け、

「貴方が言うのならば行かせて頂こう。英雄カルナの加護を受けた【神の信託を受けしものエムフィスティスニ】だ。よろしくお願いする」

簡潔な自己紹介を済ませるスーラジ。だが、色黒で恰幅の良い体つきからは、見た目を遥かに上回った気配を纏っている。彼が発言するだけで、部屋全体の空気が緊張で凍り付くほどに。

その空気に物怖じしていない陽は、話の進む速さに上機嫌な表情をし、

「こんなに早く決まるとは思ってなかったよ。では、こちらの提案なんだが……当然俺らが今お前たちに勝つことは不可能だ。だから、二週間の鍛練の期間を要求したい。二ヶ月後には団体戦闘チームコンバット第一戦も控えている事だし、かなり妥当な要求だと思うのだが、どうだろうか?」

「いいだろう、せいぜい足掻いて楽しませてくれ」

「ご厚意痛み入る」

「――どうやら思ったより遅くなったようだ。とりあえず今は、これでお開きとしないか? ルールなどの詳細は、後日決めるということでどうだろうか?」

伏がポケットから取り出した懐中時計を見ながら言った。

気づけば時計の針は正午を回っている。腹の虫が鳴いている学生もいるようだ。

「そうだな。ではそうするとしようか」

「まあ、なんだ? 転校生にしてはなかなか面白い始まりだったが、これからは同じクラスの一員だ。よろしく頼むよ」

伏に手を差し出されて、陽と槌納はそれを握り返す。

結果としては、大騒動には至らなかった。

食堂への道を走りだす者や、怒りや焦燥の面持ちで部屋を出て行った者など、様々な学生がいる。こうして、クラス内にいくばくかの疑問と、わだかまりが残留したまま、『Ω』で起こったハプニングは収束した。

いくつもの足音が消え、部屋には二人の姿だけが残る。全員が退出したことを確認した二人は、一瞬顔を見合わせ無言で自室へと移動を始めた。

こうして、新人二人を軸とした、学院の変化が幕を上げていった。

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