ホームタウンに組合ができた話
久々に帰ってきた故郷を、友人曰くホームタウンと呼ぶのだという。どうして、タウンなんて言葉を使うのだろう。どうも苦手な響きだった。確か野球の、あぁ、あれはホームグラウンドか。
とりあえず、私の帰ってきたホームタウンは、面影はありつつどこか雰囲気が違っていた。
「災禍がやってくるんだ」
友人は言う。そんなことが分かるなんて、うちにそんな探知機が出来上がったのか。
「災禍って、来てから言うものじゃないの?」
「組織が言うから、前触れでも災禍で間違いないんだ」
探知機じゃなかった。なんて怪しいんだ。
「お前も組織の組合に入っておいた方がいいぞ」
「洗脳、とか」
「それは口が裂けても言うな」
ピシャリと友人は言う。
「誰が聞いているか分からないからな」
「そもそも組織って何?」
友人は、身振り手振りで説明をしてくれた。けれど、何一つ伝わって来なかったのだった。私が街を、『ホームタウン』を、離れている間に予言者がやってきて、災禍が来ると言ったそうだ。そしてあれよあれよと組織が生まれ、組合が出来上がったということは、分かった。けれど、何一つ伝わってこないのだ。
「どんなのが来るっていうんだい?」
「あやふやだけれど、どうやら竜が暴れるらしい」
「竜が」
街は棚田になっていた。収穫時期のほが揺れている。ここに竜が降りるのか。なんということだろう。何故ここにやってくるのか。けれど、災禍とはそんなものだ。
「組合に入った方がいい」
繰り返して友人は言った。
「何をするんだい」
「ちいさなロウソクを用意して、毎晩1本渡すんだ」
「……組合とは、集金があって回していくんじゃないのかい」
「災禍のために必要なのは、ロウソクなんだ」
友人は、そっと山の麓まで連れて行ってくれた。組織の立地らしい。どうしたものか。ロウソクが、円を描いて立てられているのだ。
「わかっただろう?必要なのは、ロウソクなんだ」
ひそひそ言葉を発したあと、友人はそのまま組合へ連れて行った。見慣れた顔ぶれが並んでいる。
「タイミングがいいのか悪いのか」
「災禍はいつ来るんですか」
「それが、いいのか悪いのか分からないんだ」
つまり、もう少しらしい。ほう、と息をついてみる。不思議な時間が過ぎていく。とりあえず、私の名前は組合に刻まれた。
家のロウソクを取りに来たのは、背の低い老婆だった。
「災禍が来ないように」
彼女は言う。私はそっと、シワの深い手のひらにロウソクを置いた。
その晩の風は妙に強かった。どこか、雨の香りがする。
「もうすぐだそうだ」
友人が言う。私は頷いていた。ロウソクの輪に、私のものも混じる。
稲刈りの当日、大きな黒い雲が空を覆っていた。ピカピカと、雷光が見える。
「分かった」
思わず言っていた。しばらく空がぐずついてるとき、山の方で光が煌々と見えた。ロウソクの輪だ。
「予言者がいる」
友人は言う。老婆のことだろう。長い杖を、空に向けているのだそうだ。
ピカリと光った瞬間、1匹の竜が走った。
「稲妻だ」
思わず声がもれた。あの竜は、稲に会いに来たのだ。ただそれが、ここでは災禍になるのだろう。
竜は確かにくわっと口を開いた。ロウソクが一層強く燃える。そして、光が会話をしたようで、竜は一瞬だったが稲に触らず空へ戻った。
「災禍が去った」
組織はそう言った。このあとの行動は早かった。その日のうちに、予言者を連れたそ式は去り、組合だけが取り残される。稲が風に揺れている。
組合はとうとう、稲刈りの会に収まったのだった。稲刈りが終わる頃、私はこの街を出ようと思う。
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