檸檬と灯台
「トウダイモトクラシーっていうじゃない?」
「言うねぇ」
大正デモクラシーみたいなゴロを、彼は結構気に入っていた。俺はレモンピールを作るために、数個の檸檬を転がしていた。
「でも、愚かだよね。いくら綺麗に光を届ける存在が存在するのに、そのそばにあるものを見つけられないなんて」
「トウダイモトクラシーなのに?」
「見えない彼らが悪いんだよ。遠くを目指す人のために、何度も回転を繰り返し光を届ける職は、そうそういないよ」
檸檬は順調に切られていく。白い部分を残さないように、丁寧に縦に切り込んでいく。彼の好物でもあり、俺の得意なものだった。
「灯台の世話をする人は凄いよね。潮風に負けず立っている灯台を尊敬しえないと、できない事だと思うんだ」
「君は出来ると思うのかい」
「僕はねぇ、どうだろうねぇ」
ソファでだらけた彼の見るテレビは灯台特集だ。美しい世界の灯台を写している。
「ここから1番近い灯台ってどこだろう」
「海が近いところだと思う」
皮を鍋に放り込み、火にかける。余った果肉はボールの中で押し潰して果汁を取った。
「檸檬の香りがする」
「ちょっと反応が遅いな」
こちらへ来て様子を見て、彼の好物だと気づいた時、非常に嬉しそうに笑う。
「僕は檸檬が好きだけど、灯台守はどうだったんだろう」
「は?」
すっとソファに戻って、灯台の光を見つけ始める。
「電灯が綺麗に写るように、磨きあげる人がいたんだよ。灯台守っていうんだ」
「それは、知らなかったなぁ」
数度湯を変え、フライパンに砂糖を入れ、水分を飛ばしながら混ぜていく。
「灯台守がお気に入りのものってなんだと思う?」
「人間なんだから、それぞれじゃないか」
「それじゃ面白くないよ。灯台守ならではの共通した物ってなんだろう」
クッキングシートに皮を並べ、熱を逃がす。グラニュー糖を忘れない。一段落して、俺は酒瓶に檸檬の果汁を一気に流し込む。彼の隣に座り、グラスに酒を注いだ。
「例の特性ジントニックだ」
「嫌いじゃないだろう」
「酔いが回るのはやいんだよねぇ」
酸っぱ、と言いながら飲み込んでいく。
「きっと、灯台守もこんなものが好きだったんだと思う」
「そうかな」
「檸檬は誰にとっても特別に思えるものだろうから」
「そっかぁ」
ひょいと立ち上がって、出来たてのピールを食べて、旨いと言った彼に笑いながら、酒を1口飲んだ。
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