#5 教法公証人の失踪
異様な緊張感が部屋の中に漂っていた。レシェールの顔も少しこわばっているように見える。
"
眼の前に座るヴァルガンテの大物らしき人物はそれを聞いて鼻で笑い始めた。両側に立つ取り巻きはそんな皮肉じみた笑いに全く反応せず何かを警戒しているように突っ立っていた。
"
"
疑問が口から出てきてから後悔した。眼の前の人物は只者ではない。気を悪くすれば、浮浪者の子供など一瞬で居なかったことにされるだろう。だが、幸運なことに男はこちらを一瞥して大して気にしていないかのような表情で首を縦に振った。
"
"
ヴァルガンテ式の
"
"
レシェールが問うと男は私を指さした。
"
"
"
男がそう言った瞬間、無表情な取り巻きが拳銃の銃口をレシェールと私に向ける。撃たれれば必ず命中するだろう。その状況に身が震えた。レシェールは参ったような顔をして両手を開いた。
"
"
"
取り巻きを下がらせ、嘲るようにレシェールを見据えていた男に一歩近づいて尋ねる。面白げにこちらを見てから、顔の前で指を回した。
"
私は男が指を回しながら話しているのを聞きながら、聞き慣れない単語に疑問を抱いていた。
"
"
"
"
男が面倒臭そうに首を振る。私には自業自得な気がしてならなかった。だが、そんなことを言って逆上されても困るので口に出すのは止めておいた。そんなことを訊いているうちに話に間が空いて、レシェールがため息を付いた。
"
"
"
話が終わると男は怠そうに椅子から立ち上がって、取り巻きたちを小突きながらレシェールの家から出ていった。玄関から出る直前に睨まれた気がしたが、今更無性に怖くなってその顔を確認することが出来なかった。部屋にはレシェールと私だけが残ったが、心の中はサフィアのヴェフィサイトが村を一通り焼き尽くしたような空虚さに襲われていた。ただ、それと同時にいつも同じ残虐さだった毎日から抜け出せると思えばさほど苦にも思えなかった。
レシェールはため息をまたついて、マッチをもってコンロの方へと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます