前のエピソード――#2　荒稼ぎは命を削ぎ落とす

　ヴァルガンテの男は口元を隠しているために表情は良く分からなかったが、中流階級らしい二人の男に対する視線はさほど厳しいものには見えなかった。縄を片手にアホらしく突っ立っている男にヴァルガンテの男は近づく。

"Cossape（お前らは） es dadorta ja（ダドータをやっていたのか）?"

"J, ja（そ、そうだが）?"

"Marnelfeserl（彼女は賭けられた） es ci ja（奴隷か）?"

"Mer（まあ）, ers xale la lex（そんなところだ）."

　嘘を付くな――という心の中でのツッコミは届くこともなく少しばかり静寂な時間が流れた。ヴァルガンテの男は口元に手を当てながら、私の様子を伺っているようだった。まるで品を値踏みするような目で私の顔をじっと見ていた。

　それに何か危機感を感じたのか、視線を遮るように男が出てきた。ヴァルガンテの男は邪魔をされて不満げにそいつを睨みつけた。

"Mi molkka rerxo（俺が勝ったら） felx cene mi（こいつを俺の） icve ci dorne（ものにしていいか）?"

　男二人はお互いに見合わせてニヤケ顔を浮かべながらヴァルガンテの男に向き直った。

"Firlex（分かった）, pa（だが） wioll jol miss（俺らが勝った） lernlarvhies faller（らお前の身包み） als pesta fal（剥がさせて） elx nilirsil co'st（貰うぜ）!"

"Jexi'ert（良いだろう）."

　また、法外な提案をしてきたものだ――と思った。ヴァルガンテの男の方も特にその曖昧な条件に反論することもなく静かに頷いていた。表情が良く分からない彼はニヤケ顔のままのさっきの男二人と共にテーブルに向かって行った。解放された今のうちに逃げ出せばいいと思ったが、それはプライドが許さなかった。同情するなら、金をくれというのが真理である。だけれども、助けてくれた人を見捨てるほど心は腐っていなかった。

　無表情なディーラーが札をシャッフルし配り始めたと同時にテーブルに近づいていった。配り終わると、ニヤケ顔の男が山札から一枚札を引いた。そして、その手札をそのまま開（ナム）した。赤２、赤２、黒３、黒３，赤将、赤船という構成であった。

"No lot p'es pesta（さっそく）, elx edixa es taxt'i（あがりだぜ）!"

"Cirla（マジかよ）? Lulas mol luaspast（ありえねえや）!"

　二人組のもうひとりの方が凄い様相で驚いていた。ヴァルガンテの男は眉がぴくりとも動かなかった。黙ったまま、テーブルに出された六枚の札を眺めていた。なかなか手札を捨て札の場所に捨てない彼をニヤケ顔の男二人とディーラーが怪訝そうに見つめていた。

"Mer（あー）, ysev jetesonj（早く手札を） surulume（捨てろよ）."

"Tismal edixa（もしかして驚い） co josnuk（ちゃったとかか）?"

　男二人はお互いに顔を合わせて下品に笑っていた。彼らは負けることを一切恐れる気配が無いようだったが、次の瞬間その表情は瞬時に変わった。

"Harmie es fqa（これはなんだ）?"

　ヴァルガンテの男がテーブルに叩きつけた一枚の札。それは赤船の札だった。赤船は一つのカードセットに一枚しか入っていないはずだ。つまり、これは外部からカードの枚数が弄られていることを表していた。

　無表情であったディーラーの目が少し細まった。それがイカサマを明確に表す証拠であるかのごとくヴァルガンテの男はその札を指で何回も小突いていた。男二人は痛みに冷や汗をかいているような表情をしながら、テーブルを叩き返した。

"Jei（おい）, co lkurf eso（俺らが） mi feat jardzankatta（イカサマをやったとでも） dorne（言うのかよ）!?"

"Niv dea（そうだぜ）! Cene niv miss（この男が札を） nivaines metis（追加したって） mels eno la（可能性も否定） lex feat fqiu annia（出来ないんだぜ）!"

　ディーラーの怪訝そうな目がヴァルガンテの男の方へと向く。それでも彼の表情は冷静そのものであった。

　確かに良く考えれば、ゲームを撹乱するだけであれば何か一枚の札を隠し持って丁度２ペアや３ペアで追加し枚数が説明できなくなるときに手札に上手く混ぜて、デタラメを言えば相手をイカサマ師扱いして好き放題できる。

"Cene niv co（俺たちを騙し） eces miss ja（は出来ねえぜ）, xij（兄さん）......"

"Jol miss xelnkan（今回は不問に） gelx lecu co（してやるから） dosnud fal sysnul ja（今日は帰りなよ）!"

　薄ら笑いの男二人の額には冷や汗が垂れてきていた。ヴァルガンテの男は疑いを不問にするために去るのだろう。そう思っていたものの目の前を何かを掴んだ拳が通り過ぎた瞬間、悲痛な叫びが聞こえた。

"E styvud（痛ってえ）!!!"

　中級労働者向けに作られたような外着を切り裂いたのはヴァルガンテの男が突き刺したサバイバルナイフであった。男の腕には血の赤が滲んでいった。男が手を押さえながら、怯えた様子で引き下がるとその袖からは何枚かの赤船と黒船の札が落ちていった。先程までニヤケ顔をしていたもう一人の男も焦りで視線をきょろきょろさせていた。もはや、イカサマの事実が判明したからだろう。

"Selene co is xale si（お前もあいつみたいに成りたいか）?"

"Arl（やだなあ）, Edixa miss lap（俺らはただ）on agesquik blix（冗談を言っ）――"

"Firlex（なるほど）, selene co is（水死体がお望み） tekkars ja（ってわけだな）? Ja（だろ）?"