第17話 初めての魔法
オレは、魔王と対峙していた。
オレの何倍もありそうな黒い巨体。
オレを見下ろす赤い目。
こいつが全ての元凶だったんだ。
こいつを倒さないと世界は滅びてしまうんだ。
絶対にここで倒すんだ。
そのためにオレはここまで長い長い旅を続けてきたんだ。
「トーヤ様。お願い! 勝って!」
魔王の向こう側には檻に閉じ込められた可哀想な
ネコ耳美少女も、ウサ耳美少女も、イヌ耳美少女も、キツネ耳美少女もいる。
みんなが両手を胸の前で強く握りしめ、オレの勝利を祈ってくれている。
その横には十字架に磔にされているミリアの姿もある。
「トーヤァアアア――」
ミリアの必死な叫び声がオレを奮い立たせる。
「いくぞ、リオ!」
「うん! 任せて、トーヤ!」
リオの横に現れた七本の大きな光の矢が魔王に向かって放たれる。
同時に、オレは魔王に向かって聖剣を振り上げ走り出した。
全ての光の矢が魔王に直撃する。
だが、深々と突き刺さったハズの光の矢はすぐに消えてしまった。
全く効いていない?
だとしても、構うもんかっ!
オレは駆け寄り、声を張り上げた。
「聖なる
聖剣がオレの声に応え、黄金に輝き大きな光の刃となる。
――いっけぇえええ!
降り下ろした黄金の刃が魔王の左肩から右脇へと斬り裂いた。
「よしっ!」
勝った!
そう思った次の瞬間、魔王の口が大きく開き、そこから全てを焼き尽くす獄炎の咆哮が放たれる。
――しまっ! 避け切れない!
「危ない! トーヤ!」
直撃かと思われた、まさにその時、リオがオレの目の前に飛び込んできた。
灼熱の炎が全てリオに直撃する。
それは、時間にしたらほんの刹那の事。
だがオレの代わりに全ての攻撃を受けたリオは、まるでスローモーションのようにゆっくりとその場に落ちていった。
「そ、そんな……。オレの代わりに……。リオ、リオ、リオォオオオオオ――」
「ん? 呼んだ、トーヤ?」
その声がオレを夢から覚醒した。
目に入ってきたのは、こちらを覗き込んでいる青い鳥の姿。
「……何だ、夢か」
「一体どんな夢を見ていたのさ」
「えっ!?」
思わずリオから視線を外してしまった。
い、言えない。
あまりも中二病的な夢を、口に出すなんてできっこない。
なんとか誤魔化さねば……
何か話を反らすネタは無いかと周囲を見渡してみる。
ここはラカの町の外れにある河原だ。
ミリアと別れて二日。
オレはラカの町で獣耳娘たちを探し……いやいや!
この世界を知るべく色々と情報収集を兼ねて町を探索し、たまたま見つけたこの河原の草むらの上で、少々昼寝をしていたんだ。
周囲には人はいない。そしてネタも無い。
仕方無くオレは、ちょっと思い付いたことを口にしてみた。
「オレも魔法を使えたらなぁ……」
「できるよ」
「……えっ!?」
リオの思わぬ返答にビックリした。
「トーヤにもできるよ? 魔法を使うことくらい」
「ホ、ホントに?」
「少しコツはいるけど、誰にだってできるよ、本当に」
そうなんだ!
何か使っている人が少ないような気がして、そう簡単にはできないのだろうと思い込んでいた。
もしそれが本当なら、ぜひ使えるようになってみたい。
魔法剣士とかめちゃ燃え……ゲフンゲフン、これからの旅に絶対有利だろうからな。
「じゃあ、少し魔法の講義でもしてあげようか」
――お願いします! リオ先生!
オレは大きく頷いた。
今のオレの目はきっとキラキラと輝いていることだろう。
「この世界で魔法を使う一般的な方法は、呪文と魔法陣があるんだ」
ふむふむ。ラノベやアニメでもそんな感じだよね。
「まず呪文だけど、何故呪文を唱えると魔法が発動するか、分かる?」
「よく分からないけど、たぶん呪文がその魔法のキーワードになっているんじゃないのか? そうそう、魔法素粒子だっけ。ある特定の単語やフレーズに魔法素粒子が反応して魔法を発動する、とか?」
「正解だけど、間違い」
「……はい?」
なんだそれは?
とんちか? それとも哲学的な何かか?
「この世界の多くの人達も、トーヤと同じように考えているという意味では正解。でも、そもそもそれが間違っているんだ」
「……というと?」
「魔法というのはね、簡単に言ってしまうと、魔法素粒子を使って現象や作用に影響を与えるものなんだ」
分かるような、分からんような……
「そして魔法素粒子は、特定の単語やフレーズに反応して発動するものじゃない。人などから発せられる強いイメージなどに従って、現象などに影響を与えるんだよ」
「……あれ? じゃあ呪文は?」
「呪文なんて、ぶっちゃけ必要無い。強いイメージで魔法素粒子に命令するような感覚でいいんだよ」
「まるで魔法素粒子には意思があって、人の命令に従っているような感じだな」
「そんな感じかな。実際、魔法が得意なエルフ族では魔法素粒子のことを精霊とも呼ぶね。世界にあふれている精霊たちにお願いして魔法を発動させる、というのがエルフ族の魔法に対する考え方みたいだよ。まあ、いろいろとはしょっちゃっている点はあるけど、これは実際に近いイメージだとボクは思うな」
精霊と魔法素粒子というものが同じものを指すのか、少なくともこの世界では。
でも精霊と考えると、命令で魔法が発動するというのは何となく分かる気がしてくる。
「じゃあオレも、その精霊だか魔法素粒子だかにイメージを伝えるようにすれば、魔法は使えるんだな」
「そういうこと」
「やってみたい!」
オレは思わず立ち上がった。けど、リオはまだ話を続けるつもりらしい。
「まあまあ、ちょっと待って。まだ話は続きがあるんだよ。トーヤはこの世界の人たちより、魔法をもっとうまく効率的に使える可能性が高いんだ」
「……どういうことだ?」
早く魔法を使ってみたいと
「この世界では、火、水、風、土の四大元素に光と闇を合わせた六つが基本要素であると考えられているんだ。例えば、空に浮くということを考えると、この中では風になるね。そして風で体を浮かせるには空気の流れを作って、体を支えるよう微妙な力加減もいる」
うん。風魔法で空を飛ぶイメージは、確かにそういう感じだ。
「だけどね。単に体を浮かせるだけなら、
なんか急によく分からない話になった。
たぶんアニメかマンガでだな。詳しいことまでは分からないが。
でも、重力相互作用って?
ナンデスカ、ソレハ?
「重力魔法と言ったほうが分かりやすい? 要は無重力で体を浮かせてしまったほうが、ずっと楽にできる、ということさ」
うん。そう言ってくれると分かりやすい。
……いや、ちょっと待て?
風を発生させるのは、つまり空気の流れを作るということだからイメージしやすい。
でも無重力ってどうやればいいのかイメージできん。
あっちの世界の現代科学でも、自由落下による無重力状態というのはあるが、無重力発生装置とか、重力制御装置なんてものは実在していなかったハズだぞ。
……たぶんな。
「
「……ラノベとかアニメの中で?」
「違う違う。ちゃんと学問としてさ。素粒子物理学とか聞いたことない?」
「名前くらいなら。でも、高校レベルの勉強には出て来なかった気がするんだが……?」
「本当? トーヤが真面目に学んでなかっただけじゃない?」
失礼な!
そんなハズない……と思う。
「じゃあ、もっと身近な例で言うなら、物を温めることを考えた時、こちらの人だと火を使う。でもトーヤなら電子レンジを使うんじゃない?」
「そりゃあ、こっちにも電子レンジがあれば、だけどな」
「電子レンジの仕組みは分かる? どうやって温めているのか」
「えっと、電磁波で原子だか分子だかを震動させて温める……だっけ?」
「そうそう。つまり言いたいことは、マイクロ波で水分子を振動させて摩擦熱で温めることができるという知識があれば、物を温めるということを火を使うより効率よくできるんだよ」
「へぇー」
「つまり、あっちの世界の知識をうまく使えば、魔法も上手に効率よく使えるよってこと」
そうか。
現代知識というのは、魔法にも応用が利くものだったのか。
もうちょっと真面目に物理を勉強しておけばよかったかもな。
「ついでに言うと、この世界では電気というものがあまり理解されていない。普通の人が電気を体験するのは雷と静電気くらいかな。だから、電気に関連する魔法はほとんど認識されていないね。全く無いわけではないけど、雷の魔法というのはかなり特殊なんだ」
でも、とリオは説明を続けた。
「トーヤなら、電気というモノを、つまり電気の基本的な仕組みを知っているはずだから、どういうふうに作用させたいかをイメージできれば、雷とか電気関係の魔法を楽に使えるんじゃないかな」
「そうすると、例えば応用として磁力も扱えたり?」
「うん。できるんじゃないかな」
「そうすると、夢の兵器、レールガンなんかも扱えたり?」
「……えっと、理屈上はできる……かもしれないね。非常に大きな電流を流し続ける必要があるとか、発射の際の摩擦熱とか電気抵抗とか、いろいろと懸念はあるけど、まあなんとかなる……かもしれないね」
おお、そうか!
某電気系超能力少女がコインを加速して撃ち出していたあのシーン。
あれを実現できるかもしれない!
「でも、とりあえず指の間に電気をバチバチってところから始めてみたら?」
「どうやればいいんだ?」
「親指の先と人差し指の先をほんの少しだけ開けるようにして、どちらかの指の先から電子が放出されるようなイメージを頭に思い描いて、そしてまわりにある魔法素粒子にそのイメージを伝えるように……」
言われた通りに指を形作って、電気の流れるイメージを頭に思い浮かべてみる。
人差し指から電子が放出されるような……
電子の放出……
放出……
やれっ! 魔法素粒子!
その瞬間、バチンと音がした。
ビックリして思わず大きく目を開いた。
えっ!? で、できた!?
「できた……。できたよな、今!」
「うん。できたね。初魔法、おめでとう、トーヤ」
「うぉおおおおお、すげぇえええ――」
なんだか感動した。
自分の手をまじまじと見てしまう。
ちゃんと練習して、加減とか身に付ければ、これも実戦で使えるかもしれない。
そしていつかはレールガン!
先がすっごく楽しみになってきた。
こうしてオレは、魔法を使う第一歩を踏み出したんだ。
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