第8章8話 激戦

 将門の襲来によって、防御陣地から兵達が撤退をしていく中、将門を取り囲んだ僕たちは互いに目を合わせながら、作戦を練っていた。


 刃を交える前衛には、僕が召喚するレヴィア様と桐野少将とレナ、中衛が刀を構えた僕、後衛がソムニとミトレさんだ。


「展開!」


 僕は仲間に声をかけ、それぞれの間合いを取らせる。同時にレヴィア様を人の姿で召喚して、将門に斬りかからせる。


「ほぉ、水妖。いや、水神か。とんでもないものを出すな」


 将門はレヴィア様の水の剣をよけつつ、桐野少将とレナの動きに注意を払っているようだった。


 将門が腰の大太刀おおだちを抜く。三人の囲みの隙を狙って、レナに斬りかかるようだ。


 僕は日本刀をふりかざし、レナへのコースを消す。将門は瞬時に構えを変え、大太刀で僕をなで斬りにする。僕が慌てて張った防御結界にひびが入り、僕の身体は吹き飛ぶ。


 背中に結界を張ると、直後に地面にぶつかり、結界と僕の身体が半ば地面にめり込む。結界で防ぎきれなかったエネルギーが僕の背中に叩きつけられ、直後に胃の中から液体が噴き出した。


「クソッ」

 すぐに水の回復魔法で治療するも、無数の擦り傷がふさがるだけで、ダメージそのものはほとんど残っている。


 将門を見ると、レヴィア様、桐野少将、レナの連携した攻撃をかわし、ときに大太刀で受けながら、三対一の戦いに酔っているかのように見える。


「これならどうだ」

 僕は水弾を十個作り出し、前衛の味方の邪魔にならないよう調整しながら将門にぶつけていく。


「かっはは! 水神を召喚しながら、自らの妖術を用いるか。なかなかやるな、若造」

 水弾の力は決して弱くないはずなのに、将門は意にも介さず無視している。


 ――あれは強がりなのか、それとも、全く通用していないのか。

 少なくとも分かるのは、将門は現在の包囲された状況をなんとも思っていないようだということだ。


「どれだけ硬いんだ」

 ソムニの弾丸もはじき、ミトレさんや僕の水弾をまともにくらっても、表情ひとつ変わらない。


 僕は前衛のサポートのつもりで引き続き水弾をぶつけながら、どうすれば将門への有効打になるか考える。


 潜空艦のレーザー攻撃であれば効くかもしれないが、この明るい中で潜空艦を浮上させるリスクを考えると難しい。


「ミトレさん!」

「なぁに?」

「炎魔法、いけますか?」

「いけるよ」

「僕の水弾に炎魔法をぶつけてください」


「みんな、散開して!」

 僕は前衛の仲間に声をかけると、巨大な水球を作り、将門に向けて放つ。


「なんだ、そんなに水遊びが好きか。びしょびしょで風邪をひきそうだ」

 そういって高々と笑う将門の手前で僕の水弾とミトレさんの炎弾がぶつかる。


 大きな爆音とともに真っ白な煙が将門を包み込む。水蒸気爆発を起こしたのだ。

 真っ白な煙……湯気が風に流されていくと、少しずつ将門の様子が見えてくる。


 水蒸気爆発の熱で皮膚がただれ、左腕を失った将門が、苦悶の表情になっていた。

「小僧……」


 将門は唇が吹き飛び歯がむき出しになった口で、悔しそうに何かを呟いた。ただれた皮膚は早くも回復を始め、失ったはずの左腕は傷口から肉が盛り上がり、少しずつ生えてきている。


 僕とミトレさんは視線を交わす。意見は一致しているようで、今の攻撃で将門が確実に消耗したことと、繰り返せばどんどん体力を失うだろうことを確信する。


 僕は二つの大きな水弾を作り、将門に向けて飛ばす。ミトレさんがタイミングを合わせて炎弾を放つ。


 将門は忌々しいと行った様子で、大太刀を捨てた右腕と生えたばかりの左腕で自分の頭部を覆い、守る。

 また巨大な爆発が起こる。


 真っ白な湯気の中から、表皮を失った将門の荒い息が聞こえてくる。

「ぐぅぅ、これは厄介な攻撃を……。単独の炎の幻術よりも何倍も熱く感じるわい」


 爛れた皮膚をボトボトと落としながら、将門は笑っているように見える。

「負けぬぞ、まだまだ負けぬぞ!」

 そう言った将門から、突然の爆風が巻き起こる。

「しまった、皆、結界を……!」



◆◇◆◇◆



 クラーラは、将門が現れた野戦陣地から避難する兵を取りまとめていた。出来ればこの場を早く立ち去りたかったが、斥候によれば剣狼騎の本隊が間近に迫っているらしく、1戦交える覚悟もしていた。


 機動力の高い剣狼騎相手に野戦陣地なしで戦うとなると、かなりの被害を強いられるだろう。それは、愛弟子であるルヴァの最も避けたいところだろう。出来れば、こちらの援軍と挟み撃ちに出来るタイミングまでは逃げていたい。


「大魔法で牽制するか……」


 炎の嵐でもくらわせて、相手の足を鈍らすことはできるだろう。ただ、そうするといざ敵を殲滅しようというときのための魔力が不足しかねない。


 クラーラはただの人間であり、エルフのミトレや、特別な加護を持つルヴァとは違う。大魔法を連発できるほどの魔力量は持ちあわせていない。


 クラーラが全軍を確認していると、傭兵である地龍の牙の一行の退却が遅れているように見えた。クラーラは先頭を行く将に速度を変えず前進し続けるよう指示を出す。


 そして、自らは後方の地龍の牙の様子を見に移動する。


「地龍の牙のお歴々、どうなされた? 空いている馬を回そうか?」

「いえ、これから我々の殿戦しんがりせんをお見せいたしましょう」


 クラーラが注意深く観察すると、走りながら魔導銃の弾込めを行っている者達がいた。そして、弾込が済んだ魔導銃を手に手に後方へ回している。


「殿隊後方へ。仮照準、止まれ」


 最後尾を走りながら後ろを見ていた者達が、足を止める。


「撃てぇ!」


 いくつもの轟音がクラーラの耳を捉えた。放たれた銃弾は敵の先鋒に吸い込まれ、狼達を葬ったようだ。

 先頭が崩されて、剣狼騎の群れは速度を落とす。


「見事、天晴れな殿戦よ。地龍の牙のお歴々、素晴らしい! このまま安心して殿を任せてよろしいか」

「もちろんですとも!」


 クラーラは安心して先頭に戻る。これなら、援軍の到着まで逃げることが出来そうだった。



◆◇◆◇◆



 凄まじい嵐のような爆発だった。爆風によって地面が削られ、クレーターのような大きな穴になっている。もし結界が間に合ってなければ、仲間を何人か失うところだった。


 将門を見ると、水蒸気爆発で失った腕や皮膚を回復できているようだ。確実に体力を削っている様子だが、まだまだ余裕がありそうに見える。


「殺してやる、ヒヨッコども。覚悟しろ」

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