再会 ②
「うぐっ……これ、ありがと」
「ど、どういたしまして……」
何かのためにと持ってきておいたスポーツタオルが涙と鼻水で濡れて私のもとに帰ってきた。それを出来るだけ濡れてない面が上になるよう丁寧に畳んでバッグにしまう。
「ウチの両親に聞いてみる?二人ともスポーツ関連の仕事してるから、そういうの治せるヒントになりそうなこと知っているかもしれない。あっ……
「いやいや、そこまで気を遣ってもらわなくて大丈夫だから!笹川さんは自分のことに集中してよ。次、関東大会でしょ。あっ、そういえば、リレー見なくて良かったの?……というより、出なかったんだ?」
「都大会はウチの実力なら私が出なくても優勝できるから。私の枠は他の人に譲ったの。先輩は『自分はキャプテンだから』って責任感で自由形と連続で出てるけど」
「さすが都内最強の高校だね」
「それにリレーに出なかったおかげで、こうしてまたあんたと会えたんだし」
「そう、だね……」
うーん……なんか聞いているこっちが妙に恥ずかしくなる言い方……。
「じゃあ、私、そろそろ行かないと。部長に怒られちゃうから」
「うん、わかった。話聞いてくれて、ありがと」
「あー、もう。連絡もしないし、いきなり大会にも出なくなったから、2年間の不満をぶつけてやろうと思ったのにホント予想外過ぎ」
「ごめん……」
「きっと大変だと思うけど、気持ちが前に向いているなら体もそれについてくるから頑張ることね。私、待ってるから。あんたが来るのを」
そう言って、私の返事を聞かずに会場の中へと戻って行く笹川さんの姿を見て、また、の先に続く言葉はなんだろうなんて考えた。またここで、と言えるだけの自信と確証なんて全然ない。
現在時刻が気になってスマホを見ると「今日はお疲れー」と先輩から連絡が来ていた。アプリの画面を開いて「お疲れ様でした」と返事をすると、同じタイミングで押切さんも同じ返事をしていた。一つ前の画面に戻って、登録されている名前を見る。画面の下のほうにあった名前をタップする。空っぽの画面に「優勝おめでとう」と打ち込んだ。
私はきっと、私のことを見つけてほしかったんだ。
小さい頃から心のどこかがゆらゆらと宙を漂っていて、自信や目標や覚悟のような自分をつくる構成要素が見当たらない私のかたちを誰かに見つけてほしかった。あなたはこうだ、君ならこうする、そんな私の指標となるものを発見してくれる人のことを。
でも、それは自分から動かないと見つけてもらえない。自分を見つけてほしいなら、見つけてくれる誰かを見つけないといけない。なんか難しい話だけど、まぁ……要するに『いいから動け』ってことなんだと思う。
「あっ……」
私は笹川さんが向かった方向、つまり、会場の入口へとまた向かった。忘れ物を取りに行く途中だったことをすっかり忘れていた……。
観覧席に戻って探したけど、ICカードは全然見つからなかった。会場からはどんどん人の姿が減っていく。スタッフの人に「そろそろ出てください」と促されて理由を説明したら、スタッフルームに案内された。どうやら落し物として届けられていたらしい。
会場から出るとすっかり夕暮れ時になっていた。探したときにかいた汗が風にあたって冷たい。
動くときは早めに動かないといけないみたい。
時間を見ようとスマホを見ると、ちょうど久我崎さんが「明日からまた頑張りましょう」と返事をしたところだった。
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