第11話 織田信長、謀反武将と学ぶTRPG中編
織田信長と謀反武将ゲーマーたち。
しかし、意外にもみんな礼儀正しく、和気
だが、そこが怖い。和気藹々としながら短刀を刺してきそうな武将ばかりなのだ。
まあ、TRPGを遊ぶだけなので、別に天下を争っているわけではない。
過剰に謀反を警戒する必要はないだろう。
「今回は、こちらの三人が初心者なので、『CoC』を遊ぶことにしたのじゃ。わしの“TRPGでびゅう”でもあったからな」
信長は、さっそくマイルールブックを用意した。
「だとしたら、やっぱりシナリオは『悪霊の家』ですかね?」
「じゃな。コウ太のKPを参考にするとしよう」
信長も、結構このセッションを楽しみにしているようである。
まあ、この面子で「それは裏切りを意味する言葉」の『DX3』とかチョイスすると大変なことになりそうだ。揃いも揃って
「では、お願い申しあげます」
松永久秀が頭を下げる。なかなか礼儀正しい。
だが、コウ太は気づいた。
久秀は頭を下げながらも、信長からまったく視線を外していない。
「ささ、コウ太殿。お近づきの印に、まずは一献」
「あ、は、はい……」
宇喜多直家から、プラコップにコーラを注いでもらう。
相変わらずにこやかな笑顔を浮かべている。だが、何か得体が知れず、口をつけるのをためらってしまう。
「ご安心くだされ、毒など入っていませんから」
「いやそのう、疑うわじゃないんですけども……」
「戦国の世ならいざしらず。それに、やるならもっとコウ太殿から信用を得て、気の緩んだところを狙いますよ」
ふふっと微笑みながら直家は言う。
怖い。冗談なのはわかっているが、人物が人物だけにシャレにならない。
直家は、暗殺謀殺を得意とする謀将であるが、そのやり方というのは相手と
たとえば、直家は備前の
祖父の敵でもあった
宗景に一度背いた後に和睦して、息子の
結局、宗景に離反して追放する下剋上を果たすのだが、このとき直家に反発した
備前国金川城主の
ちなみに、追放した主君の宗景は直家の母にてをつけ、妹もそうだったという説もあり、本人も男色関係にあったという噂もある。人間関係がすさまじすぎる。
直家から、宴席や狩りのお誘いがあったら、暗殺のフラグといっていい。
そんな人物から杯を受けるのは、コウ太も躊躇がある。
「ははは、直家殿は冗談がきつい。コウ太殿が本気にしてしまいますぞ」
「ははは、為信殿も調略にかけてはなかなかではありませんか」
髭モジャの為信と柔和そうな直家が一緒に笑い合っている。
和やかな空気なのだが、腹に何かを抱えているようで気が抜けない。
「まずはTRPGが何かじゃな。わしも初心者なので、ゆっくり説明するぞ」
「お願いいたします」
まず、信長は簡単にTRPGについて説明した。
TRPGとは、GMがストーリーを語り、プレイヤーが自分のPCを担当して物語を遊んでいく、という通り一遍な解説である。
謀反武将たちも、ふむふむと頷いて理解しようとする。
信長も初心者KPである。
今はTRPGというものがわかっており、簡単に理解できているが、初心者の自分でも理解できたからと言って簡単なわけではない。
実際に何回か遊んで、段階を得ているからこそ理解して簡単なのであって、初心者はその段階を踏んでいないのである。ステップアップした立場だからこそ簡単に見えるのだ。
だから「そんなこともわからないのか」は禁句としている。
わからないのは当然だし、だから段階を与えないといけないのだ。
「この遊びでは、PCというのは自分とは別人のようでござるが……これはそれがしとは別人ということですかな?」
聞いたのは、松永久秀である。
TRPGについてもっとも熱心に聞いているのは、彼だ。
文化教養人だけあって、遊興の道には好奇心を刺激されているようである。
「そこよな。将棋の駒でいう歩兵や香車のようなものと思えばよい。ゲームでは“ゆにっと”とも言うらしい」
「南蛮の言葉ですか?」
「そうじゃ。して、歩兵や香車にも、親兄弟もおろう。たとえば、この歩兵の生き別れの兄が、と金と成って切り込んでくるかもしれん」
信長はそう言って自慢のタブレットPCで将棋アプリを立ち上げる。
これの駒をタッチして動かし、歩を進めてと金に成らせた。
「ううむ、骨肉相食むと。左様なこと、あるかもしれませんな」
「そこで、おぬしがこの歩兵であったなら、なんと言う?」
「そうですな。『兄上、よもやこの場にて出会おうとは。それがし、主家を見限りました。そちらにつきますので格別なご
ここで敵方に寝返る辺りが、いかにも松永弾正らしい。
これを見ていた信長が我が意を得たりと思わず扇子をパシっと叩く。
「弾正、それが“ロールプレイ”というものよ!」
「ほおお、これがにございますか!」
サツキくんも頷き、津軽為信も宇喜多直家も感嘆の声を上げる。
コウ太もちょっと感心した。
キャラクターを演じるということを将棋の駒にたとえ、さっそく松永久秀からさっそくロールプレイを引き出したのである。さすがは戦国のゲームマスターである。
「いや、いやいや、これは面白そうですな! では、こちらの金となって『当家の命運ここまで。殿、お命頂戴いたす』と、くるりと王将に切っ先を向けます」
「なら、角もこう言うのですよ。『それがし、金殿と謀ってこの機を伺っておりまた。これも戦国の世の習い、御免』と向きを変えるわけです」
津軽為朝の金と宇喜多直家の角が、揃って槍の向きを変えて寝返った。
「愚かな王将は、『おのれ謀ったな、金、角!』と
「すると桂馬まで『そもそもが、この戦は我らが調略によって仕組んだもの。内応は約束はすでにおるのでござる』と敵方につく」
「ははははは、王将方は総崩れでござろう!」
「しかし、玉将も、いずれかの駒に寝首をかかれるやもしれぬ。これは愉快じゃ」
「その前に、まず金将殿と図って切れ者の桂馬を消しませんとね」
謀将三人が大笑いしてロールプレイを楽しんでいた。
これぞ悪い大人の見本という感じの笑い方である。
この王将、よほど人望がなかったのか、歩や桂馬はともかく脇にいた金と角までが敵側についたら、もう滅亡するほかない。
皆、戦国の世に名を残すほどの謀反武将だけに謀反を通じてわかり合い、TRPGという遊びの楽しみ方を理解したようだ。
一方、KPを務める信長は、なんともいえない顔になっている。
「あの、どうしました?」
「うーむ、例え話とはいえ
そりゃそうだろうと、コウ太も思う。
特に、松永弾正には二度も裏切られている信長である。
天下人の立場上、スナック感覚で謀反を見せつけられてはたまらない。
まあ、それはさておき――。
ロールプレイの楽しみも十分にわかったようで、いよいよセッション開始となる。
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