第12話 織田信長、謀反武将と学ぶTRPG後編
で、シナリオはコウ太と信長が出会って遊んだ『悪霊の家』を遊ぶことになった。
これを信長が戦国時代風にアレンジする。
村の外れにある屋敷を、旅で出会った者たちが頼まれて片付けと探索を依頼されるというものだ。
「
松永久秀の第一声である。ちなみに、PCは修験者を選択した。
まあ、そうだろう。
戦国時代という暴力がありふれた時代では、この解決方法がシンプルだ。
信長も、そうだろうそうだろうと言わんばかりに頷いている。
「弾正殿、それはいささか性急です。この家屋敷にはまだ家財が残っております。無事引き渡すのが我らの役目のはず」
コウ太が待ったをかける前に、宇喜多直家が久秀をそれとなくたしなめた。
暗殺や謀略以外では、なかなかの常識人なのかもしれない。
彼の場合、平和的に解決するために戦でなく暗殺を選んでいるところがある。
ちなみに、PCは浪人を選んでいる。
「燃やすのは最後の手段といたしましょう。それに信長公の趣向ですぞ。火攻めの備えくらい、あると考えたほうが……」
「なるほど、それはそのとおりじゃ」
津軽為信の言葉に、久秀も頷いた。
為信のPCは商人で、サツキくんは足軽、コウ太は巫女を選択している。
個性的な探索者が集まった。
この中で信長と付き合いが長いのは、ダイスになった明智光秀と松永久秀である。
それだけに、信長のやりそうなことは大体わかっているようだ。
ちょっと残念そうな信長の表情を見るかぎり、やっぱり対策はあったらしい。
よかった、『D&D』をやった時は、信長のダンジョンを燻して大変な目に遭った記憶がある。
「では、屋敷の中を調べられるぞ。さて、どうする?」
というわけで、コウ太の巫女は、謀反武将たちの探索者とともに屋敷の中をいろいろ調べていく。
今回は、初心者の謀反武将たちにTRPGを楽しんでもらうのが目的なので、あくまでも見守る立場だ。
探索の主導権は、久秀、直家、為信に委ねている。
サツキくんは最年少ながら経験のあるゲーマーだ、コウ太と同じく見守る立場だ。
一度やっているシナリオで、しかも見守る立場で何が面白いのかと思うかもしれないが、これがなかなか楽しいのである。ベテランTRPGゲーマーにとって、初心者の初々しい反応や発想というのは、ご褒美といえる。
で、必要になったら助け船を出す。
何度も遊んでいるシナリオも、楽しむ視点をこうして攻略から切り替えると、何度でも遊べるのだ。
「まずは、この居間から探索しようと思うのですが」
直家が提案した。
久秀に続いて、彼も筋がいい。
暗殺や謀略は知力が優れているからこそということであろう。
「そうですな。いざというときに備えて、得物も構えつつ、ですな」
商人という職業を選んでいるが、旅の途中の用心として信長に頼んで道中差しがほしいと申告し、刀を装備している。さすが、油断ならない。
「俺も、いつでも鉄砲の準備をします」
「あ、サツキくん足軽だからか」
「まあ、戦闘になると撃つまでにラウンドかかっちゃいますけど」
一九二〇年代以降なら、銃器は強い。
TRPG黎明期は、ファンタジーのゲームが多かったので、『CoC』は銃器が撃てるということで一部から評価されていた。
しかし、戦国時代の火縄銃は装填と再発射には時間がかかる。
それでも装備に選ぶのは、明智光秀が鉄砲の名手であることの名残だろうか。
神話的生物が登場してきたら現用兵器ですら歯が立たないことがほとんどである。
ホラーなのだからそういうバランスだ。
そんなわけで一通り探索し、怪奇現象に遭遇してSANもまあまあ減っている。
謀反武将たちも、この屋敷に怪しげな力が潜んでいると嫌がうえにも理解した。
「方々、ここはまずは謀議でありましょう……」
為信が
「悪霊ともなると、毒も効きませんでしょうし。如何にして退治いたしましょうか」
まず毒殺という選択肢から検討したのは宇喜多直家である。この辺は、さすがといったところだ。
「やはり、悪霊の仕業であろうか?」
「KPの信長公曰く、この“しなりお”の題目は『悪霊の家』とのこと。しからば悪霊でまず間違いなかろうかと」
松永久秀に、津軽為信がメタ読みした答えをする。
鋭い読みだ、とても初心者とは思えない。
こういう、TRPGが初めてにもかかわらずベテランでも舌を巻くプレイをするのを“初心者詐欺”ということがある。
ちなみに、初心者詐欺という言葉には、経験者にも関わらず初心者だと主張して、ミスや失態を免除してもらおうと偽った申告をするという意味もある。
「為信さん、いい読みだと思います。でも、そういうメタ読みとプレイヤー発言で解決するのはちょっとデリケートなところがありますから」
「おっ、そうであられるか」
「よいよい、KPの意図が伝わっておるから、左様な心配はいらんぞ」
信長は気にしていないようだ。
実のところ、メタ思考とPCの立場から離れたプレイヤー発言なくしては、TRPGのセッションはなかなか進まないものだ。
「燃やせばいいじゃん」というのは実はPCの視点からだとリスクのない最良の選択だとしても、プレイヤーの視点からすると「それだと面白くないじゃん」ということになる。
『CoC』はホラーなので、この視点がないと、目と耳を塞いで閉じこもり、生き残るのが正解となってしまいがちだ。
ただ、プレイヤー視点のみで解決していくのもシラケてしまう。
ここが難しい点である、とコウ太は思っている。
あんまりにもプレイヤー視点で先読みされると、シナリオを用意したKPががっかりしてしまうのだ。
「ならば、“ぷれいやぁ”である我らはそう思っていても、探索者は知らぬ体でいきましょう」
「おお、なるほど!」
直家の発言に、久秀も為信も手をぽんと手を打った。
――と、このように視点の切り分けが重要なのである。
プレイヤーとして危険があるとわかっていても、PCは知らないふりをしていくのは楽しい、これはルールブックにも書いてあることだ。
「さすがは油断ならぬ面子よな。おぬしら、本当に初心者か?」
信長も、嬉しそうに微笑んだ。
そういう信長も、飲み込みはよかったのである。
戦国武将は、やはりTRPGの筋がいい。
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