第2話帰還

 鳥の囀ずりを遮るように、部屋のドアがノックされる。


「お兄ちゃん!もう朝だよー!」


 聴こえる声は、ミキのものだ。どうやら無事に異世界からの帰還を果たしたようだ。


 ゆっくりと起き上がり、先ずはドアを開ける。1つ年下の中学三年生のミキだが、身長は俺よりも高い170㎝だ。


「お兄ちゃん?えっと・・・お兄ちゃんだよね?」


 ドアを開けた瞬間、ミキは俺の顔を見て首を傾げている。


「何を言っている、間違いなくお前の兄だ。」


「うん、みたいだね。何か顔つきが違うからびっくりした!」


 ウンウンと頷き、ミキは踵を返し階段を降りていった。


 中学の制服を着ているということは、こちらの世界の時間はそんなに経過していないのだろう。いや、むしろ7時間程しか経過していないようだ。


 俺は自分の顔を小さな鏡で確認する。まるで異世界での10年が夢だったかのように、若さ溢れる顔だ。


「そうか・・・戻った、か。」


 喜び半分、虚しさ半分といったなんとも表現しようのない感情が胸をめぐる。


「ルーシア・・・。メリー・・・。」


 それは異世界で出会い、共に旅をし戦った仲間の名前。気がつけば彼女達に惚れていたのだが、魔王を倒すことを優先して・・・いや、怖かったのだろう仲間との関係を壊すことが。


「はっ・・・!俺は、じゃなくとんだヘタレ野郎だな・・・。」


 そう呟きながら鏡に映る自分にデコピンをした瞬間、バガンッという音とともに鏡は跡形もなく粉々になった。


「・・・マジか。」


 勿論、異世界転移する前の自分にそんな力はない。試しにと魔法を使う。


「光よ集い闇を照らせ・・・。」


 人差し指を突き立て、指先にを集めると指先に明かりが灯った。


「若干だが、魔力の集まりが悪い・・・。向こうに比べて魔素が少ないからか・・・。」


 なんにせよ、異世界での10年間が全くの無駄ではなかったのだ。


「駄女神は撤回してやるか。」


 窓から空を見上げ俺はそう呟いたのだった。


 ★


「お兄ちゃん、早くしないと遅刻だよー!私はもう行くね!」


 階下からミキの声が聴こえ、時計を見る。時刻は7時半。

 我が家は町の外れにあり、俺が通う高校も電車を乗り継ぐ必要がある。その通学時間は約1時間だ。


 このままでは遅刻だが、魔法がこの世界でも使えるなら何の問題もない。両親は共働きで朝早く出社するために、今この家にいるのは俺一人。


 少々魔素の集まりが遅くても、遅刻は完全に免れるだろう。


「詠唱は必要ないな。。」


 部屋の真ん中で、全身に魔力をめぐらせる。すると徐々に魔素が集まり、空間に小さな黒い穴ができる。その空間は次第に広がっていき人が一人通れるまでになった。


「5分か・・・。これからはゆっくり寝れるな。」


 黒い空間を抜ければ、学校の裏手にある神社へと出た。


「駄女神と言った詫びに、賽銭でも投げていくか。」


 奮発して100円を投げ入れた俺は、スッキリとした顔で学校へ向かったのだった。


「あれって・・・、村上くんだよね?」


 ★


「おはよう。」


「ヒロミチ、おはよう。」


 教室に向かう廊下で、中学時代からの友達である三枝正宗と会う。


 180㎝の高身長で、俺とは15㎝も差があり並んで歩くと大人と子供のようだ。


「今日は早いのな?」


「ああ、いい近道を発見してな。」


 当然のように大嘘をつく、バレなければ問題ないだろう。


「そうなんだ。」


 正宗とは逆方向の道なのでばれることはないだろう。それに正宗は他人を疑うようなヤツでもないしな。大柄な体だが気は弱く、優しいヤツだし。


 なんだかんだで正宗と喋ってるのが、一番帰って来た実感が沸いたのだった。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る