ある勇者の帰還~村上ヒロミチの場合~
日進ニ歩
第1話 ある魔王と女神の話
「フハハハ!よくぞたどり着いた勇者とその仲間達よ!我こそが魔王ダガンなり!!」
何度も練習したセリフを言い終え我はマントを翻し振り返る。だが、そこにいたのは一人の人間の青年のみだった。
「・・・お主、仲間はどうした?」
聖剣を握り、黒髪黒目をした青年。間違いなく情報にある勇者であるだろう。だが、勇者には他に4人の仲間がいたはずだ。
「仲間・・・だぁ~・・・。」
我の言葉に反応した勇者が顔を上げる。その顔を見た瞬間、我は思わずヒィッと情けない声をあげてしまった。
その瞳は、我以上の深淵を携えとても光の勇者と呼ばれている者の瞳ではなかったのだ。
(なんだこいつ?今までの勇者とは雰囲気が違うぞ!)
我は勇者に倒されようとも、200年程すればまた復活することができるのだ。今までの復活の回数は10回、10人の勇者を見てきた。
その10人は男だったり女だったり、エルフだったりドワーフだったりと性別や種族の違いはありこそ1つの共通点があった。
それは希望に満ちた瞳だ。
我を倒しこの世界に平穏を求める希望の瞳。今までの勇者にはそれがあった。
だが、いま我の前に立っている勇者はそれがない。むしろ何もかもに絶望した瞳だ。
「あんなやつらは仲間でも何でもねぇ・・・。もうこの世界の人間なんてどうでもいい・・・。ああそうだ・・・てめぇを倒してとっとと帰ろう。」
我に構わず上げた顔を再び下に向け、勇者はブツブツと言っている。
(怖っ!?)
歴戦の魔王である我が恐ろしいのは確かに勇者だが、今回ばかりは今までとは違う恐怖を感じている。
「ふは・・・フハハハ!流石は勇者!!我にここまでの恐怖をををををををををををを・・・おいっ!」
「うるせぇっ!さっさとくたばれっ!!」
なんという滅茶苦茶な勇者なのだ!我が喋っている最中に攻撃してくるとは!今までの勇者にはいなかったぞ!!
「避けんじゃねぇーーー!!」
据わった目で繰り出される勇者の剣撃に、我は次第に呑み込まれそして力尽きた。
「み、見事・・・。」
「うるせぇ!さっさと消えろっ!!」
本当になんなのだ今回の勇者は!我は最期の言葉を諦め早々に消える。その際に初めて抱いた感情を忘れる事はないだろう。
(ああ、次の勇者はまともな勇者でありますように・・・。)
★女神視点
私は魔王と勇者の戦いを、神域から覗き絶句する。
つい昨日までは夢と希望に満ちた瞳をしていた勇者が、荒んだ瞳で魔王を斬り刻んでいたからだ。
一体私が見ていなかった時に何があったのだろうか?私は気になり時計を巻き戻す。
今まで覗いていた水面の映像が、昨晩へと変わり私は額に手を当てた。
「これか・・・。」
水面に映った映像は、勇者とその仲間の一向が泊まった宿屋だ。
これまで10年という月日を苦楽ともに過ごした勇者一向、その男女比は3対2。
男3人女2人、そう勇者は戦いに破れたのだ。
勇者は一人ベッドで腰掛けうつむき・・・。他の2部屋では、仲間の男女がベッドで愛を育んでいる。
(この様子だと以前から4人はこんな感じだったのでしょうね・・・。それを勇者は初めて知ったと。)
勇者のプライバシーを尊重し、夜は覗き見をしていなかったのだ。
仲間達も普段はこそこそとしていたのだろうが、いよいよ最終決戦というところで思い残す事の無いようにハメを外してしまったのだろう。
それを偶然知ってしまったのでしょうね・・・。
その後ベッドで腰掛けていた勇者が聖剣を握りしめ、魔王の元へと単独で赴いた。という映像を見て私は時計の針を元に戻す。
「おいっ!」
「ひゃいっ!」
ドスの利いた声が突然聴こえ、思わず私は返事をする。
「お前の要望通り、魔王は倒した。さっさと俺を元の世界に戻せっ!」
間違いなく勇者の声である。私は背筋に汗を流しながらも平然を繕う。
「勇者ヒロミチよ・・・、よくぞ・・・。」
「どうでもいいっ!さっさとしろっ!この駄女神がっ!!」
だ、駄女神って・・・。私は戦いの神で恋愛の神ではないのだから仕方ないでしょう!
そう怒鳴りたいが、今の勇者は何をしでかすか分からないので堪える。
「分かりました。では、元の世界に戻します。」
もういいや。さっさと帰らせたほうがあちらの世界のためにもなりそうだし。そう思い私は勇者を元の世界へと戻したのだった。
「あっ!レベルリセットするの忘れてた・・・。」
気付いた時には遅く、勇者は元の世界へと戻っていた。次に違う世界へと干渉出来るのは100年先だ。もうどうしようもないと私は諦め、眠りについたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます