愛情 第三章

 ゑみちゃんを愛していた。

 人生ではじめてのことだった。

 じんぜんたる毎日の勤務を完遂して帰宅するとゑみちゃんが微笑してぎようぼうしてくれている。休日になるとまずゑみちゃんを片腕で抱擁しながら町内を一まわりしてみた。やがて子連れの夫婦や小学生がいんしんとする公園までデートをしにいった。けんれいは人形と蜜月を閲する男性をかつ視しかいわいではぬえてきこうせつとなっていった。両親もきようてんしたとしかおもえない息子にでんしていたがいままでの息子の人生が人生であるがゆゑに沈黙していた。しばらくして男性はゆびを購入する。かいれいなる夜景をはるかせるレストランにて衆人環視で白眼視されながらゑみちゃんにゆびをプレゼントした。いわく〈ぼくと結婚してくれませんか〉と。ゑみちゃんは微笑していた。ようにしてゑみちゃんとの結婚をけつした男性はゑみちゃんを両親に紹介する。マンションの居間にて四人で卓子をじようすると男性はいった。〈この子がゑみちゃんですこのたび結婚することにしました〉と。母親は〈まあ〉といった。父親は〈ほほう〉といった。母親は微苦笑しながらいう。〈インターネットで専門家に相談したらかしわざきに優秀な精神科医さんがいらっしゃるんだって〉と。

 家族はかしわざきまいしんした。

 家族ひつきよう男性と母親と父親とゑみちゃんは沈黙しながらしやりように搭乗してかしわざき救生病院へとばくしんする。中途母親がきよしはじめた。かんとして父親はいう。〈なきたいのはみんなおなじだ〉と。救生病院はホームページでりゆうらんするよりもかいにおもわれた。自動ドアをけみしてホールにると患者や家族たちが長椅子に鎮座している。精神科といえばふうてんの患者たちがろうぜきの百鬼夜行をしている印象があったので両親はきつきようする。受付で午後からの診療をりようしようしてもらうと二時間ほど長椅子に鎮座して順番をぎようぼうした。やがて男性の順番にほうちやくする。〈神宮寺〉というシールの添付された診察室一番のまえの椅子でりようとしていると診察室にしようへいされた。母親はまでの息子の人生とラブドールにかんれんするいちいちじゆうする。最後に〈一生入院でしょうか〉といった。神宮寺医師は銀縁眼鏡をあいしてこたえる。〈入院はしません息子さんは完璧に正気です〉と。〈これほど正気な人間をわたしはみたことがありませんこんな人生を生きてきたら何度発狂していてもおかしくありませんよ〉と。〈純一くんは素晴らしい男性です〉と。

 家族は帰路についた。

 長岡市までの高速道路をばくしんしながらしやりようのなかで両親はぼうぜんしつしていた。やがて父親がしようじゆした。〈ほんとうになきたいときにはなみだはでないもんだな〉と。母親はこうこうをひらいたまま首肯する。いずれにせよ結婚はきまった。男性はきんじやくやくとして結婚式場を渉猟する。インターネット上で長岡市内の結婚式場の見学と説明を予約した。せんざいいちぐうの時宜とみて両親もおしなべて見学に参加する。四人で結婚式場にほうちやくしウェディング・プランナーが担当につくと母親は尋問した。〈人形と結婚式なんてあげられるんですか〉と。父親はつづける。〈いやあそんなことできませんよねすみませんでした〉と。たまゆらきつきようしていたウェディング・プランナーは両親の胸臆をしんしやくしてかんとした。いわく〈結婚は法律でさだめられていますが結婚式は自由なんですよ事実婚のカップルのための結婚式はむかしからされていましたし最近ではLGBTのかたがたがかたちだけでも式をあげることもあります安心してください〉と。つづけて男性にむかっていう。〈素敵なカップルさんですねどうか結婚式は弊社におまかせください〉と。

 結婚式当日となる。

 はくの骨組みに五段階でかいなるがらが設置されたモダンなる結婚式場には男性のろくしんけんぞくやくだんのAVの先輩をへきとうとする同僚たちのみならず東京からラブドール愛妻家連盟も鎮座していた。男性はゑみちゃんを片腕で抱擁しながらあるいてくる。プロテスタントの牧師のまえでえいごう不滅の愛情を盟約しせつぷんした。AVの先輩が落涙している。いわく〈こんな方法があったのかよ〉と。脳性の愛妻家がいう。〈おめもラブドル愛妻家なるといいよ〉と。結婚式がつつがしゆうえんし披露宴となる。新郎新婦の親族の紹介や参加者たちの記念写真をけみして本番となった。主賓は父親だけが担当しへんい挨拶となる。ウエディング・ケーキの入刀や新郎新婦のお色直しをけみして来賓の祝辞となった。愛妻家連盟リーダーである統合失調症の男性が担当する。いわく〈ラブドールは我我のはだのいろも学歴もしようがいも問題にしませんユニークフェイスだから中卒だから統合失調症だからと人間を愛してくれない人間とそれでも人間を愛してくれるラブドールのいずれがより人間らしいでしょうか〉と。

 男性の両親はどうこくした。

 会場には万雷の拍手がめいた。

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