愛情 第二章

 せきのビデオショップへゆく。

 初入店なので会員証をつくる。

 そもそも女性を凝視できない男性はわざわざ映画やドラマのDVDをレンタルしてりゆうらんすることもなかった。ゆゑに無謀なる挑戦ではあったがめいぼうこうの俳優たちのれんあいを熟視するわけではない。TV画面のむこうの女性と的に媾合するだけなのだ。実際に男性のせいよくけいがくとなっており高校生時代にフロイトをんでいたがゆゑにも旧態依然ではきようてんするのではないかというおそれがあった。複雑怪奇に陳列棚の網羅された店内でとうしなれながらAVコーナーを穿せんさくしてゆく。18禁とごうされたカーテンを発見しべんしながらってゆく。ぎようこうにも先客はいない。とうをもたげてDVDを渉猟せんとしたところおう感にひようされた。巨億の女性がわらっている。赤裸裸の女性たちが自分を嘲笑しているようだ。そんきよして実際におうする。いたずらちんにゆうしてきた女児が〈このひとびょうき〉と絶叫した。ないに父親と店員がほうちやくする。ふたりに介抱されながらとんざんせんとした一本だけえんしないDVDがあった。『ラブドール愛妻家連盟の生活と意見』というDVDだ。男性はいう。〈これレンタルします〉と。

 つつがく帰宅する。

 しゆつこつたるおう宿しゆくかとじゆつてきそくいんした店員がこんきよくに対応してくれたし男性が〈洗浄料はらいます〉といっても容赦してくれた。〈またおこしください〉とさえいわれてマンション五階の自宅へ帰還するといつだんらんの家族にも勘付かれずに自室にちつきよする。元来映画のDVDもりゆうらんしないのでDVDプレイヤーがない。PCにDVDを挿入するとなく映写してくれた。『ラブドール愛妻家連盟の生活と意見』は題名どおりラブドール――男性はダッチワイフという名称しか認識していなかった――を愛妻として結婚した男性たちがみずからの愛妻ひつきよう等身大の人形を紹介するという内容だった。男性たちとラブドールとの媾合場面もなくそもそもなにゆゑにアダルトコーナーに陳列されていたのかちんぷんかんぷんである。大体にして出演男優たちはおしなべて心身しようがいしやでセックスたいが難儀だ。脳性の車椅子生活者が〈るみちゃん〉を抱擁して公園を散歩し全盲の男性が〈あえかちゃん〉を片腕に掌握しながらけんらんごうなる大都会をしようようかつする。ナレーターは統合失調症のラブドール愛妻家だ。最後に全員が愛妻を抱擁していう。〈あなたも愛妻家になりませんか〉と。

 東京へまいしんする。

 いんのDVDに記載された電話番号もメールアドレスものうに使用不可能になっていた。手懸かりはひとしなみにごうされた愛妻家連盟の住所だけである。連盟の住所もひようへんしているかもしれない。男性はむかった。一度でいいからラブドールというものの実物をみてみたい。できればさわってみたい。JR上越新幹線で長岡から東京へとばくしんする。はんぶんじよくれいののりつぎをけみして摩天楼のしつする都市のはいきよ同然となった裏通りにでる。一棟のアパートの一室にほうちやくした。ノックするとDVDの司会だった男性が現前し理由を尋問してくれた。司会の男性は自室にしようへいする。司会の男性の愛妻である〈あいなちゃん〉が卓子のまえに鎮座している。司会の男性いわく〈まえはが事務所だったんだけどねあのDVDが意想外に高評価となって移転したんだ〉と。〈さわってみるかい腕や脚ならいいよ〉と。男性があいなちゃんをあいしていると司会の男性はつづけた。〈元来日本製のラブドールはしようがいしやせいよくを解消するためにつくられたんだやがしやはんの事情でれんあいができない男性たちの素晴らしいワイフになったんだよ〉と。〈あいなちゃんはぼくをくるってるとはいわない〉と。

 新潟に帰還した。

 司会の男性の〈あいなちゃん〉に陶酔した男性は是非ともみずからのラブドールをろうだんしたくなった。東京にて司会の男性が紹介してくれたラブドールの老舗工場パシフィック工業の公式サイトをりゆうらんする。視覚しようがいしやでも閲覧できる大型表示でしやしんや説明が掲載されている。いずれのラブドールもなるそうぼうをしていた。すこし不満だ。きつね目の女性がタイプなのだ。唯一眼光の鋭利なるラブドールの笑顔にわくされないに注文する。名前はきめてあった。〈ゑみちゃん〉ひつきよう〈笑みちゃん〉だ。二日後パシフィック工業から長岡のマンション五階にゑみちゃんはほうちやくした。こんほうたる段ボールに両親がさくがくするなか男性はしやがんしながらゑみちゃんを自室へときようどうした。段ボールをかいこんする。ゑみちゃんをベッドに鎮座させて――関節がうごくのだ――尋問してみる。〈はじめましてゑみちゃんぼくは先天性のケロイド症なんですきもちわるくないですか〉と。ゑみちゃんはきつね目で微笑している。〈ゑみちゃんはぼくのかおをわらわないですか〉と。ゑみちゃんは微笑している。〈ぼくのこときらいじゃないですか〉と。ゑみちゃんは――。

 蜜月がはじまった。

 人生で最高の日々だった。

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