死刑 第三章

がみありがとう。

 大変うれしかったです。

 ゆきゑのがみりゆうらんしまだあなたがわたしをちようあいしてくれていたことに驚喜しております。あなたはわたしのことを忘却したのではないかとじゆつてきそくいんしていたからです。きつあなたの愛情はてんじようきゆうなのでしょう。ようなる愛妻をもちわたしは世界で一番しあわせなだんだとおもっています。無論わたしもゆきゑを愛しています。かんけつなる刑務官たちがいうようにまんいちあなたがわたしをあやめるようなことがあってもわたしはあなたを愛するでしょう。哲郎や典子があやめられてもみなおなじ感慨だとおもいます。実際にわたしたちはある盟約をしたのです。場合によってはあなたがわたしをわたしがあなたをあやめるようにという約束です。といえどもあなたのごうされたとおりわたしは生きています。あなたはわたしも哲郎も典子もころしていません。

 あなたは間違っていません。

 証拠にゆきゑの手紙にごうされたわたしたち家族の記憶はつゆいささかもびゆうがありません。あなたとのかいこうめいちようほうふつされます。けつけつたるわたしの鉄工所の事務員としてしんしようたんしてくださいましたね。哲郎や典子が誕生したの歓喜もわすれるはずがありません。わたしたちはえいごう不滅の幸福のなかにありました。ようなるにわたしたちのすみほうはいたる火災に遭遇しわたしたちはすみを喪失してしまったのです。おうの原因は不明です。すくなくともゆきゑの錯誤によるものではありません。であなたはわたしや家族をあやめたとされしゆつこつとして悪人たちにろうらくされて独居房に幽閉されてしまったのです。わたしたち家族はていゆうけつしてあなたを救済せんとしました。哲郎と典子もりくりよくきようしんしてくれたのですがいまとおいところにいるのであなたをきゆうじゆつすることができないのです。ゆえにわたしが悪人たちをけつして長岡拘置所にちんにゆうしあなたを地獄の監獄から脱獄させんとしているわけです。

 現実はざんでした。

 ゆきゑをせんにしている悪人たちがなる存在なのかはせんめいされませんがおうじやくなるわたしひとりでたいできるほどさいなるやからではありませんでした。わたしは百折とうで挑戦しましたがあなたを拘置所からくりげさせることはあたいません。わたしはほんとうにあなたをきゆうじゆつせんとしたのです。できることならばなんとしてでもゆきゑをとりもどしたかった。あなたはいいひとです。監獄に幽閉されている意味はありません。わたしは実際に生きているのですから裁判もたらです。ゆえにあなたは自由にならなければならない。といえども時間が肉薄しています。わたしたちがけつべつする時間がきているのです。わたしがあなたをきゆうじゆつできなかったことで怎麼生そもさんあなたをおうのうさせたことでしょう。四畳半の監獄の一室にてし刑務官からはひとごろしとされみずからの最愛の家族をあやめたとけつされざんぼうされなければならなかったのです。ゆきゑをとんざんせしめられなければわたしはわたしなりにあなたを幸福にしたいとおもいました。といえどいんの苦痛はもうすぐにしゆうえんします。

 ぎようこうか不幸か。

 あなたにはてんとうさまの御加護があるかもしれません。またあなたには残酷なる運命がぎようぼうしているのかもしれません。いずれの結末になるかはしや世界のわたしたちにはしゆんべつあたわざることです。しゆもなく長岡拘置所の悪人たちはわたしからあなたを永遠にえないところへめとってしまうでしょう。といえどこくそくとすることはありません。きつあなたがいっときの恐怖を超克すればあなたの眼前には素晴らしい世界がひろがるはずです。あなたが喪失したものあなたが喪失したひとびとあなたが喪失したすべてとまたかいこうするのです。無論最後まであなたをきゆうじゆつできなかったことをざんします。できればあなたを幸福なる環境で最後までりたかったとおもいます。あばらやでもいいし老人ホームでもいいからあなたとともに最後のしあわせなえいきよけみしたかったのです。といえどいんけつべつこそがほんとうの意味での喜劇なのかもしれません。わたしたちはもうすぐおわかれしないといけませんが今度はもっと素晴らしい場所でかいこうできるとおもいます。ではわたしとあなたと哲郎と典子と永遠にしあわせにくらせるのです。愛しています。

 さかきばらゆきゑへ

 さかきばら一郎より〉

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