學問 第三章

 三人はかすみせきにむかった。

 およそ予定どおりのりよである。

 秋葉原から山手線東京方面ゆきで東京駅にきびすをかえし東京メトロ丸ノ内線おぎくぼゆきでかすみせきほうちやくした。警察官によるついしようじゆつてきそくいんされるがゆゑにかいわいのコンビニエンスストアをばつしようしてせきの格安ホテルを穿せんさくする。格安ホテルならば偽名でりようしようされる蓋然性があったからである。はや料金をしんゆうする必要もなかったので和室があるという理由だけで某格安ホテルにまいしんした。きようあいなるロビーにて宿帳に必須事項をごうしてゆく。適当なる偽名とにせものの住所をかんぼくするとなにゆゑか職業欄もあったので〈画家〉とした。げいじゆつ家ならば偽名がてつけつされた場合筆名とすることもできるし硝酸を確認されてもおうのようにエッチング用ときよたんすることもできた。ふたり分の和室料を支払うと一室のかぎが譲渡される。ふたりが和室にむかうとロビーの職員はするようながんぼうでみおくり警察に電話をかけた。いわく〈斉藤貴文というおじいさんの特徴に類似したきやくさまがおりますはいうたがわしいところがあればまた連絡さしあげます〉と。

 和室にほうちやくした。

 たる摩天楼のしつする東京かすみせきいえども格安ホテルの室内はきようあいである。無論三人実質ふたりのするに問題はなかった。祖父はないにミネラルウォーターや硝酸尿酸を準備して〈製造〉に着手する。情熱うつぼつたる祖父をべつけんしながら祖母は秋葉原で購入した玩おもちや類を紙袋からとりだしこんぽうをほどいてゆく。つゆいささらんなる祖母はまずアニメキャラクターのブロマイドを整理してフィギュア専門店で購入したフィギュアとたいしよさせてゆく。遺影にいわく〈最近の漫画の子供たちってかわいいのねえ文明ちゃんが熱心になるのもわかるね〉と。〈これが文明ちゃんの大好きなざわにこちゃんと双葉あんずちゃんていうのね浮気はいけないね〉と。〈じゃあにこちゃんとあんずちゃんを最前列にしましょうね〉と。つづいてアニメのDVDを整理整頓してゆく。いんのフィギュアとみくらべて『ラブライブ!』と『アイドルマスター・シンデレラガールズ』のDVDをちゆつちよくした。最後はプラモデルであり歴代機動戦士ガンダムシリーズの商品を渉猟したがどれがどれだかしゆんべつできない。祖母は直感で簡単に組立てられそうなプラモデルをくみたててゆく。

 祖父は黙然と作業していた。

 はんぶんじよくれいのくみたて作業にけんえんした祖母はばつざんがいせいとして〈製造〉に熱中している祖父をへいげいする。いわく〈わたしは文科Ⅰ類だよプラモデルなんてむつかしいものはつくれませんてあなたは理科Ⅲ類でしょうそれのついでにつくってもらえないかね〉と。たんをきった刹那にざんした。おもはゆい祖母に祖父はせいちゆうをくわえる。〈文科も理科もⅠ類もⅢ類もない文明ちゃんには死んでも関係ないことだ〉と。〈だけれどちらが一段落ついたらちらもなんとかするよ〉と。祖母が遺影に〈文明ちゃんごめんね〉といっているはざも祖父は〈製造〉してゆく。硝酸尿酸純水をこうはんさせて〈本体〉を構築し起動装置と信管を製造していった。就中なかんずく難儀なのは信管である。安全装置が精緻に機能しなければ製造者のいのちが危険だ。祖母は一旦プラモデルの製造を遅延して祖父の神業に陶酔する。祖父は〈製造〉にたんできしながらいう。〈むかしの学生は勉強なんかしないでこんなもんつくってたもんだおれは学生運動の世代じゃないがほうばいに共産党員がいたんだよ〉と。 

〈製造〉は完遂された。

 るいがいを酷使して〈製造〉していた祖父はおおわらわで祖母とていゆうけつしプラモデルを完成させてゆく。やがて明滅していたTVでNHKの討論番組がはつじんした。物故者の問題が意想外の波紋をよんでいるようで文部科学大臣が出演している。文部科学大臣はぜんとしていう。〈東大大学院卒の官僚と中卒のひきこもりのいずれが社会に有用かということです〉と。威丈高なる司会者がいう。〈東大卒とひきこもりの青年のいのちをてんびんにかけるんですか〉と。しやがんの大臣はいう。〈東大卒の防衛相は巨億の人命を敵国からまもりますがひきこもりはせいぜい自爆テロをおこすくらいしかがないでしょう〉と。画面下部のTwitterリアルタイム放送では〈同意します〉〈大臣いいこといってくれた〉などと表示されている。祖父はプラモデルをつくりおわっていう。〈いやだねえ文明ちゃんアニメをみよう〉と。三人でアニメをりゆうらんするとふたりは寝床にった。いわく〈がくもんとはなんだろうねなにかいのちの評価基準なのかね〉と。〈東京だいがくではまなべなかったことをこんかいたくさんまなべたよ文明ちゃんのかげだよ〉と。

 ふたりは物語りあう。

 最後のよるをすごす。

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