狂気 第三章

 りよははじまった。

 最初はゲームショップだ。

 救生病院からくじらなみへと遷移するはざに息子にTVゲームを購入してやるわけだ。親子はテックランド川崎店にる。あくせくしている母親はスズキ・ワゴンRに用意していた〈だいがくノート〉をひもとく。いわく〈丸印がついてるんだけどニンテンドー3DSってのがほしいみたい〉と。父親がきつおんのように四苦八苦しながら店員に尋問するとさんくさそうなそうぼうで仰視しながらニンテンドー3DSを準備してくれた。錯乱状態にあった息子は片腕でとうをかきむしりながらもう片腕でゲームソフトの陳列棚をこつぱいにせんとしていくばくかのゲームソフトのケースをそんしてしまった。かくねんしようの父親はきつきようした店員にたいして〈こわれたやつ全部買いますから〉といって実際に購入した。ゲーム機とゲームソフトを掌握した両親はこうべをたれて店舗からとんざんする。店舗内では店員と店長がしようじゆしあっていた。

 しやりようのなかで両親は満足そうだ。

 スズキ・ワゴンR内にて母親はニンテンドー3DSの説明書を熟読し購入した『妖怪ウォッチ』『妖怪ウォッチ2本家』『真・女神転生Ⅳ』のうち〈これならいまの清貴でもできるかな〉といったがんぼうでくびをかしげながら『妖怪ウォッチ』のソフトをセットした。くじらなみ海岸に隣接するひとつの駐車場にほうちやくする。夏休みまでえいきよはあるが日曜日のくじらなみ海岸はいんしんとしている。〈素粒子には悪魔の記憶がのこってるんだ〉と絶叫する息子を父親がきようどうすると家族はつゆいささばくなるくじらなみ展望台へまいしんする。ふうこうめいな展望台だがひとかげはすくない。三人で展望台のかいわいくさむらに鎮座すると母親が〈プレゼント〉といってニンテンドー3DSを譲渡する。へんぽんとして沈黙した息子はゲームをらんしようする。母親は〈清貴がんばれ〉といい父親も〈最近のゲームはおもしろそうだなあ〉という。すがに重病の息子は指先がけいれんしてゲームどころではない。ニンテンドー3DSを土塊にほうてきすると両脚でじゆうりんこつぱいにしてしまう。母親は〈またいくらでも買ってあげるからね〉といい父親も微笑しながら首肯する。

 家族はおもいでの土地をめぐる。

 息子の自室にて両親が発見した〈しやしんファイル〉をていせいしながら家族はびようまんたる日本海かいわいしようようかつしてゆく。こうかんの〈しやしんファイル〉の付箋の添付された景色をばつしようするわけだ。の一眼レフカメラはほうてきしてしまったのでのうに懐古趣味から購入したポラロイドカメラを準備して出発した。いみじくもポラロイドカメラならばはんぶんじよくれいの現像や印刷をせずとも記憶をのこせる。まずはくじらなみ海岸だ。とうが往還する浜辺にはり避暑の老若男女がひしめいておりしようしやなる観光客らしいふうぼうもある。三人は〈しやしんファイル〉のしやしんどおりの位置をおくそくして三脚をたてしやしんどおりの位置にしつしやしんをとった。息子があばれるので衆人環視のなかかつ視されたが両親は微笑したままだ。つぎはこいびと岬である。両親で息子を介抱するようにえんえん長蛇たる石段をとうはんり〈しやしんファイルどおり〉のしやしんを再現する。母親はいう。〈清貴もこいびとがいたらよかったね〉と。父親はこうしようする。

 最後は〈いくら丼〉だ。

 しよくそうぜんたる〈しやしんファイル〉には店内のしやしんしかほうされていないのでいくばくかの店舗を穿せんさくしたがやがて〈しやしんファイル〉ぴったりの料理店が発見された。〈しやしんファイル〉では父親がいくら丼をらっており正気の息子がカメラにピースサインしている。母親が撮影したのだろう。三人でいくら丼を注文して〈しやしんファイル〉どおりのしやしんを再現する。撮影はつつがく完遂したがシャッターをおろした刹那息子が一口もらっていなかったいくら丼を移動スペースの床面にほうてきしてこつぱいにしてしまった。怒髪天をいた老年の店員が〈か〉といってせんじようをはじめると父親はろうへいげいして憤怒の表情をほとばしらせた。父親がろういちゆうすると両親はふたりで床面を掃除してどんぶり代金とともに料金を支払った。つゆいささか遅延したひるをおえて帰路についた家族はしやりよう内でいつだんらんした。父親いわく〈たのしかったか〉と。〈とうさんとかあさんはたのしかったぞ〉と。〈なみだがでるくらいな〉と。

 こうしようしてつづけた。

〈清貴が生まれてきてよかった〉と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る