君の声にたかる恋

 ルームシェアを始めて半年が過ぎた。彼はバイトの帰りに、割引の卵を求めて閉店間際のスーパーに寄る。

 結局、彼が買わなかった卵焼き器は、新生活が始まってから自分が買った。彼が興味を覚えたものが欲しかった。何を考えているのか知りたかった。

 中学の時、引っ込み思案だった自分を何かにつけて構ってくれた彼と、高校進学で離れるのが耐え難くて、卒業式の前の日に泣いた。また会おうね、もちろん、と言って、別れて。一年に一度は会ってはいた。でも明るい彼には友達が多くて、自分はお情けで会ってもらってるんじゃないかと思うと泣けてきた。

 受験の話になった時、何気なく志望校を告げると、彼はぱっと顔を輝かせた。

「俺もそこの経済受けるよ」

 また一緒だな。そう言って笑った彼の顔が心にしみて、帰ってからまた泣いた。意地でも受からないといけない。

 同じ大学に行けるだけでも嬉しかった。双方の親が、ルームシェアを提案して、彼も承諾した時は、明日死ぬのではないかと思った。でもそれから半年が無事に過ぎている。


 耳元で何かが囁いた。振り返るけど、何もない。ああ、と思い至る。店の前の、ライトにたかっていた虫たちだ。その羽音がまだ耳に残っている。

 早く帰って、彼の声が聞きたい。ひとりぼっちの帰り道、それまでは羽音が賑やかしてくれる。

 木枯らしに負けない虫たちの音。

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