木蓮で水は飲めない

木蓮が、雨水でも貯めそうな咲き方をした日のことだった。今にも雨が降りそうな中、デパートに買い物に行きがてら、娘の要望で僕は屋上の遊園地に行くためにエレベーターに乗り込む。

「何時まで遊んでいいの?」

「三時まで」

 それからお茶でもして帰ろう。帰って夕飯を作って風呂に入って寝る。帰りまでに雨が降らなければ良い。

 屋上の遊園地は、無人ではなかったけど閑散としている。娘は僕が与えた百円玉を持って駆け出した。

 汽車に乗り込んではしゃいでいる娘を見ると、自分の子供時代を思い出す。一緒に乗った友達の、痩せた背中で感じた背骨の凹凸の感触だけ鮮明に覚えていた。骨が体から出てるんじゃないのか?そう思うくらいには、その背中は痩せていた。

 別に、体重が軽いからなったわけではないだろうが、彼は今旅客機のパイロットをしている。いつか機内アナウンスで彼の名前を聞くだろう。でも、娘がもう少し大きくならないことには飛行機に乗るのは難しい。狭い機内で騒ぐ彼女をなだめる自信がないからだ。

 雲の上で、飛行機が飛んで行くあの高い音がした。晴れていれば、きっと背骨みたいな飛行機雲が見えたことだろう。

 いつか彼の操縦する飛行機に乗るとき、僕はその背中の上を歩くのだ。

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